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『帝国の死角』 高木彬光 [高木彬光]

以前から角川文庫版を所有していたのですが、きっかけがなくて未読でした。
なにせ、上下巻構成ですから、手に取るのに覚悟(?)が入ります。
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現在、JDCの会合で高木彬光がテーマになっていること。
平成版『東西ミステリーベスト100』の国内編186位にランクインしていたこと。
解説の大内茂男が、『獄門島』、『点と線』と並ぶ日本推理小説ベストスリーのひとつ、と豪語し、ネットにも「高木彬光の隠れた最高傑作」という書き込みがちらちらあること。
などから、意を決して読みました。

第一部『天皇の密使』と第二部『神々の黄昏』の二部構成。
『天皇の密使』は、「鈴木文書」と呼ばれる元海軍少将、鈴木高徳の手記を、高木彬光が文語体から口語に改め、小説の文体に直して発表した、という形式をとっています。
昭和14年に鈴木氏は軍事物資となる貴金属(今で言う、レアメタル)を買い付けるという密命を帯びてドイツに渡る。
資金は、天皇家がスイス銀行に預けている秘密預金。

買い付けは順調に進むも、太平洋戦争が始まり、レアメタルを日本に運搬する手段を失う。
そして、鈴木氏のレアメタルを狙うナチス武装親衛隊。

遠くヨーロッパの地にいて、日本の戦況を憂いながら、物語は未亡人との恋やヒトラー暗殺計画などもからんで、ドラスティックに進んでいきます。
第一部では、昭和20年9月までが描かれます。

そして『神々の黄昏』の舞台は、現代(昭和44年)。
鈴木氏が日本に残した遺児、二人の兄弟を軸に話は進みます。
鈴木氏が最終的にレアメタルをドルに替え、スイス銀行に預けた莫大な資金を巡る謎が展開。
未亡人との間に生まれた日独混血の青年が来日し、資金の争奪戦は、連続殺人事件に発展。

と、かなりスケールの大きい話で、高木彬光らしからぬストーリーに、ある種新鮮なかんじで楽しく読みました。
ところが、これはこれで面白いお話なのですが、これで終わらないのが『帝国の死角』。
エピローグで、全体にしかけられた謎が明かされます。
そして、真相を知ると、実に実に高木彬光らしいミステリーであると判るのです。

詳しく書くとネタバレになりますので、この程度にとどめます。

角川文庫版はとうの昔に絶版になっていて、きわめて入手が難しい小説ですが、古本屋で運良く見かけたら迷わず購入することをオススメします。
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『黒魔王』 高木彬光 [高木彬光]

戦後の昭和ミステリを象徴する存在の高木彬光が生み出したキャラクターのひとり、大前田英策。
彼は主として短編を主戦場としたキャラクターですが、長編も4作あります。
『黒魔王』、『悪魔の火祭』、『断層』、『狐の密室』です。
『黒魔王』以外は角川文庫に収録されていたので、古書で手に入る可能性がありますが、『黒魔王』は文庫になったことがなく、長らく幻の作品でしたが、2010年に刊行された『高木彬光探偵小説選』(論創社)に納められました。いまでは逆に4長編のうちもっとも手に入りやすい作品となっています。
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「こくまおう」と読みます。
“長編”といっても『高木彬光探偵小説選』には雑誌連載された初出版でして、中編といってもいい分量です。
単行本になる際、だいぶ加筆されたそうです。そちらも読みたい。

神津恭介と共演している『狐の密室』は当然として、『悪魔の火祭』と『断層』も意外に本格ミステリの骨格を持つ、正統的な探偵小説なのですが、『黒魔王』は、江戸川乱歩の通俗長編のような怪人小説です!
どれだけ手下を持っているか分からないほど、黒魔王は主人公たちの情報をつかんでおり、つねに裏をかいてきます。荒唐無稽な展開に、ただただ唖然。
文庫化されなかった理由がなんとなく分かるような気がします。

なにせ、テレビさえ本格的に普及していなかった時代です。庶民の娯楽のうち、小説が占める割合は相当高かったでしょう。つまり、いまより大量の小説が消費されていたはずです。
角田喜久雄とかが書いていた時代小説などもそんな小説のひとつだったのでしょう。
筋は単純で、ばたばたと事件が起きて、展開の早い物語も必要だったに違いありません。

何が言いたいかと申しますと、現代では到底出版されるような水準ではないということです……

とはいえ、高木彬光の作品群のうち、大前田英策シリーズは、やはり無視できない存在です。
『黒魔王』は、大前田と同じく私立探偵である川島竜子と結ばれる重要なエピソードであります。
やはり読んでおかないと!?
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『狐の密室』 高木彬光 [高木彬光]

高木彬光が擁する二人の名探偵、神津恭介と大前田英策が共演するなんとも豪華なストーリーを堪能できるのが長編推理小説『狐の密室』です。
25年ぶりに再読しました。当然、犯人もトリックも覚えていませんので、初読と同じく楽しめたのでした。
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(神津恭介を演ずる近藤正臣。若い!)

1977(昭和52)年の発表です。
このブログでも、高木彬光の珍妙な文章については何度か取り上げていますが、もうこのころになってくると、至極まっとうな書きっぷりになってしまっています。アクが消えてしまったようで、実は残念だったりします。

京都に住む資産家から、息子の恋人に関する調査を依頼された大前田英策。恋人というのが新興宗教の幹部で、教祖の愛人でもある美女。大前田英策は、教団の本部がある琵琶湖畔を訪れ、信者と偽って潜入捜査を開始。ところが、彼の見ている前で、教祖が雪に閉ざされた拝殿の中で絞殺されてしまう。証言を集めると、現場は完全な密室だった……。

英策とその妻、龍子は、伊豆の伊東で静養しているかの有名な神津恭介に助けを求めます。
やはり、密室トリックを破るのは、天才型探偵でないといけません。

さて、この長編。高木彬光の全盛期をとっくに過ぎた時期の作品ですが、意外と面白いです。
大前田栄策を巡り、いくつもの罠や仕掛けがかけられていて、最後までどんでん返しが用意されているなかなかの作りになっています。
その分、題名にもなっている密室のほうは、お寒いトリックですが……。

高木彬光のプロットの組み立てには特徴があります。
主要な登場人物たちが一堂に会し、あれやこれやと検討することによって、証言を引き出し、推理を展開し、次のシーンにつなげていきます。“高木評定”とでも仮称しておきましょうか。
この『狐の密室』でも、神津恭介と大前田夫妻、そして地元の県警の刑事などが、食事したり、そのあとコーヒーを飲んだりするシーンがかなり目立ちます。

このような書き方なので、探偵側の登場人物は多い方がいい。
そのためか、高木彬光の探偵キャラクターには、夫婦が多い。この大前田夫妻をはじめ、弁護士・百谷泉一郎、検事・霧島三郎もおしどり夫婦ですね。

独身の神津恭介も日本の名探偵としては、松下研三というしっかりしたワトスン役がいますね。

高木彬光は作品数が多いのに、水準を高く維持しています。
また、法廷推理、歴史推理など、つねにパイオニアのひとりとして仕事を残してます。
そのわりに、現在の評価があまり高くないのは残念です。
ここはひとり、かつてのように映像化で再ブレイクしてほしいものです。

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『断層』 高木彬光 [高木彬光]

大前田英策シリーズの長編『断層』を読みました。
発表は昭和34年。社会派推理小説が台頭し始めたころです。
高木彬光自身もこの時期、メインキャラクターを神津恭介から弁護士・百谷泉一郎に切り替えています。

高木彬光探偵小説選 (論創ミステリ叢書)

高木彬光探偵小説選 (論創ミステリ叢書)

  • 作者: 高木 彬光
  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2010/01/30
  • メディア: 単行本


大前田英策は主に短編で活躍したキャラクターですが、長編も4編ほどあります。
『黒魔王』、『悪魔の火祭』、『断層』、『狐の密室』です。
最後の『狐の密室』は、昭和50年代の作品で、神津恭介と競演していることで有名な作品です。
『黒魔王』以外は角川文庫に収録されていましたので(現在はすべて絶版)、入手できないことはありませんが、『黒魔王』は長く幻の長編でした。
ようやく1月に刊行された『高木彬光探偵小説選』に収録され、簡単に手に入るようになりました。

さて、大前田英策は部下を何人も持つ私立探偵で、実在した江戸時代末期の侠客、大前田英五郎の末裔という設定。キャラクターの作りはいかにも行動派ですが、作品を読むと意外にも、頭で勝負する探偵という感が強いです。
入れ墨された女性を巡る物語の『悪魔の火祭』などは、探偵役が神津恭介でも違和感がありません。
この『断層』も、裁判制度を取り上げているため、なにやら社会派の匂いがしますが、骨格は立派な謎解き。
ただし、トリックはシンプルで、高木彬光のミステリに慣れた私は、作者の仕掛けを序盤から見抜き、真犯人もその登場シーンから、
「ああ、こいつが犯人だな」
と判りました。

とはいうものの、ストーリーは軽快で、高木彬光は文章は下手でも、プロットの組み立てはなかなか上手であることを証明しています。

今後、他の大前田英策シリーズを読んでいく予定です。
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『黒白の囮』 高木彬光 [高木彬光]

【今回は、赤い彗星さんから感想をいただきました。】

 高木彬光の『黒白の囮』を最近、読み返しました。
 昭和42年(1967)に、松本清張が監修した「新本格推理小説全集」の一冊として刊行された作品で、個人的には高木彬光中期の傑作だと考えています。
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 深夜の名神高速道路で、車がガードレールに激突し、ドライバーが即死するという事故が起こる。ドライバーの名は安川雄一郎、神戸に本拠を置く新洋物産の社長であった。警察が調査するも事件性はなしと判断され、タイヤのパンクによる事故としてこの一件は片付けられた。
 しかし、その後、雄一郎の一人娘である沢本志津子が自宅で殺害されるという事件が勃発する。現場の遺留品や目撃者の証言などから女性秘書が第一容疑者として浮かび上がるのだが……。

 大雑把に言って、この作品の美点は以下のニ点が挙げられると思います。
 一つは、犯人の言わば捜査陣の心理的な死角をついた計画です。このトリックは高木彬光の独創という訳ではなくて海外の作品にも先例があるのですが、上手い使い方がなされていると思います。
 もう一つは、緻密なアリバイトリックが一種の「捨てトリック」として使われているという点です。普通ならば十分、メイントリックとして用いることが出来るレベルのアリバイトリックです。初読の際はこの点に一番感心しました。

 この作品の探偵役としては「グズ茂」こと近松茂道検事が起用されています。彼の信念は「百人の罪人を見のがしても、無実の一人を罰するな」というもので、立件に際しても「石橋を叩いて渡らず」と評されるほどの慎重居士振りを発揮します。しかし、こうした彼の姿勢が犯人の計画を崩す一因になっていることに、今回の再読で初めて気付きました。つまり、探偵役の態度や性格といったものまでがプロットの構成要素として組み込まれている訳で、高木彬光の周到な筆づかいに改めて感心しました。

 と、ここまでは褒めちぎってきた訳ですが、最後に一点、ちょっと気になった点を挙げておきます。
 この作品には、「真相」と題された最後の章の前に、所謂「読者への挑戦状」がついています。こう書かれています。
 「-読者諸君に- ここまでで、あらゆるデータは出そろいました。作者としては、本格推理小説の大原則にもとづいてフェアプレーをつづけてきたつもりですが、最後の一章をお読みになる前に、ここで、いったん本を閉じ、真犯人を指摘されてはいかがでしょうか」
 高木彬光には悪いですが、はっきり言って、この時点で真犯人を論理的に指摘することは誰にも出来ないと思います。何故なら、真犯人を指摘するに足る直接的な証拠は最後の章で明かされるからです。
 「読者への挑戦状」自体は大変好きな趣向ですが、この作品においてははっきり言って瑕疵以外の何物でもない、初読の時からそう思っていました。再読でもその印象は変わらず、それで原本を見てみたのですが、何と原本には「読者への挑戦状」はなかったのです!
 カッパ・ノベルス版を持っていないので、ここからは私の想像ですが、恐らく原本の次に出されたカッパ・ノベルス版から、この「読者への挑戦状」は付け足されたのだと思います。
 光文社文庫の『新装版 黒白の囮』に収められている、「カッパ・ノベルス版カバー 著者のことば」を読むと、高木彬光自身も相当この作品に愛着と自信を持っていたようです。そういう気持ちがつい、この蛇足とも言うべき「読者への挑戦状」をつけさせてしまったのでしょうか。

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『連合艦隊ついに勝つ』 高木彬光 [高木彬光]

昭和を代表する推理作家、高木彬光が1971年に発表した、いまでいう「架空戦記」にあたる小説『連合艦隊ついに勝つ』を読みました。
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「私」の友人である、軍事雑誌『光』(『丸』を意識して作った名前でしょうか)の編集部に勤める東郷平七郎。彼はヘビーな軍事マニアで、太平洋戦争の海戦の記録はほとんど記憶している。その彼が、ひょんなことからタイムスリップし、四つの重要な海戦を有利に導くように提督たちにアドバイスする、という話。
設定はいささか強引で、高天原からの使いだと称する東郷平七郎のハッタリを信じてしまう軍人たちもどうかも思いますが、まあ、海戦の成り行きをピタピタと当てられては信ずるほかはないでしょうね。

その四つの海戦とは、
「ミッドウェー海戦」
「第一次ソロモン海戦」
「第三次ソロモン海戦」
「レイテ沖海戦」
です。
「タイムトラベルもの」にはいくつかのパターンがあります。
そのひとつで、いわゆる“タイムパラドックス”を回避するために用いられる設定が、「過去に戻り歴史を変えよう介入しても、大筋の歴史は変えられない」とするもの。
この『連合艦隊ついに勝つ』も、個々の海戦については史実をひっくり返して戦術的勝利をおさめますが、日本の敗戦というフレーム自体は変えられないという結末。
「帝国海軍は、敗れても悔いなき戦いを戦いぬいた」というラストの言葉にあるとおり、「ついに勝つ」とは、帝国の勝利を示すものではありません。

「悔いなき戦い」とあるとおり、この四つの海戦は、「もし~していたら……」という明確なテーマがあることが共通しています。「ミッドウェー海戦」はもし爆装のまま攻撃機を発艦していたら『赤城』以下の空母が誘爆を起こすことはなかったし、「第一次ソロモン海戦」ではもし輸送船団も攻撃していたら、ガダルカナルの戦いは多少有利に展開したかもしれません。

とくに、「レイテ沖海戦」で、戦艦『大和』以下の栗田艦隊がそのままレイテ湾に突入していれば、アメリカ軍は大変なことになっていたに違いありません。
マニアならよく知っているそんな「もし」をシミュレートしてしまうあたり、なかなか鋭い狙いの小説になっています。
高木彬光も楽しんで書いていたのでしょう。彼の傑作に共通する文章の勢いが感じられます。跳ねるようなリズムがあります。高木はミステリでもよく戦史を引用しています。ダンケルクの撤退とか。もともと戦記好きだったのでしょう。
高木彬光のベスト10に入る傑作です。

ただ、私程度のミリタリーマニアでも気づく史実の誤記がいくつかありました。
たとえば、角川文庫版の128ページに「第二次ソロモン海戦」で「ヨークタウン」を大破、とありますが、正しくは「エンタープライズ」ですね。「ヨークタウン」はすでに「ミッドウェー海戦」で撃沈しています。

さて、この小説で面白いのは、タイムスリップする方法です。
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」では、自動車型のタイムマシン、
「バブルへGO!!」では、洗濯機型タイムマシン、
「ファイナル・カウントダウン」では嵐、
ですが、『連合艦隊ついに勝つ』ではなんと……
これは読んでからのお楽しみです。高木彬光らしいセンスのなさというか豪腕というか。
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「妖婦の宿」 高木彬光 [高木彬光]

傑作フーダニット! 短編版“人形はなぜ殺される”


名探偵・神津恭介シリーズ初期の傑作短編「妖婦の宿」を再読してみました。
日本探偵作家クラブが昭和24年の正月に行った犯人当てゲームのテキストとして朗読されたものを原型とした典型的なフーダニットです。
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(「妖婦の宿」の関連画像がなかったので、近藤正臣氏にスペースを埋めていただきます。)

ヴァンプ女優・八雲真利子が投宿する伊豆の白泉ホテルに、彼女を殺害するにたる動機をもった男たちが一泊する。
そこへ、八雲真利子そっくりの蝋人形が届けられる。
全裸の蝋人形の胸には深々と短剣が突き刺さっていた。
翌朝、八雲真利子の他殺体が密室状態の自室で発見される。
庭には、しまっておいたはずの蝋人形が捨てられていた。
蝋人形は泥まみれの真利子のスリッパだけを履いていた……

被害者が殺害される前に人形が殺されるシチュエーションといえば、日本の本格ミステリを代表する名作、高木彬光の『人形はなぜ殺される』があまりにも有名ですね。
この短編では、『人形は~』とはまったく異なった意味で、殺された人形が重要性を持ちます。
犯人を限定するロジック、犯人を読者から隠蔽するためのトリック、蝋人形という道具の使い方など、本格ミステリの高度な手法が詰め込まれており、高木彬光がデビュー直後にはすでに本格の技法をすっかり会得し、使いこなせていたことがよく判る作品です。

平成になって「新本格派」が得意とする、あるカテゴリーのトリックが、とても上手く使われていることも特筆すべきポイント。
予備知識がなければ、真犯人を指摘するのはまず無理でしょう。

今回再読してその完成度の高さに驚きました。
いまは収録している短編集がのきなみ絶版であるばかりか、角川文庫版『妖婦の宿』も古本屋であまり見かけることはありません。
これだけの作品が入手困難となっているのは、非常に残念です。

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『大東京四谷怪談』 高木彬光 [高木彬光]

高木彬光の「隅野隴人シリーズ」第3作『大東京四谷怪談』を読みました。20年ぶりの再読です。内容は、完全に忘れていました。
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探偵小説研究会の『本格ミステリ・ベスト100 1975-1994』(東京創元社)では、85位にランクされております。

江戸時代の歌舞伎、鶴屋南北・作の『東海道四谷怪談』の見立て殺人モノです。1976年の作品。
いまから約30年前の作品です。当時はまだ江戸時代の怪談話が今より広く認知されていたのでしょうね。再読していて、とにかく「四谷怪談」自体をよく知らないので、ピンときませんでした。
「一枚、二枚~」の「番町皿屋敷」と完全に混同していました。お岩さんが皿を数える話だとばっかり思っていました(汗;)。
調べたら、『東海道四谷怪談』は、『仮名手本忠臣蔵』の、いまでいうスピンオフみたいな作品なんですね。塩冶藩士とか高師直が登場してくる。驚きました。

物語は、その『東海道四谷怪談』を現代版にアレンジした脚本『大東京四谷怪談』を執筆中の劇作家のもとに、「お岩」と名乗る女から「執筆を中止しないと死ぬ」という脅迫電話が毎晩のようにかかってくる、という悩みを、シリーズのワトソン役で記述者の村田和子が相談されるところからスタートします。
その後、「四谷怪談」の名場面の見立て殺人が発生。連続殺人事件へと展開します。

この時期になると、高木彬光の文章もだいぶ安定してきて、おかしな言い回しはなくなっています。ある意味、ちょっと淋しいですが。プロットも複雑で、現代に甦る怪談の恐怖がそこそこ描けており(あくまで「そこそこ」)、小説家としての円熟を感じました。

「隅野隴人シリーズ」の特徴は、本格推理でありながら、警察の捜査がほとんど描かれないところ。まったくの一般人、村田和子の視点で事件が俯瞰されますが、入ってくる情報が断片的で、また関係者からの任意による聞き取りから推理を組み立てなければならず、手探りで事件を再構成していくスリルのようなものが楽しめます。

しかし、あいかわらず名探偵・隅野隴人の推理は、作者が創造したもうひとりの天才型探偵・神津恭介と同様、ほとんど直感。「着眼点」など皆無。読者の知らない情報でどんどん推理を組み立てるので、読者が推理に参加する余地はありません。

ちなみに、「隅野隴人シリーズ」全5部作の仕掛けの伏線が、この『大東京四谷怪談』からは、はっきり書き込まれています。未読方は、ちょっと気にされておくとよいかもしれません。
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『人形はなぜ殺される』 高木彬光 [高木彬光]

昭和の戦後ミステリ史そのものである高木彬光の最高傑作『人形はなぜ殺される』を読みました。
なんと、6度目の再読でした。

人形はなぜ殺される 新装版 高木彬光コレクション (光文社文庫)

人形はなぜ殺される 新装版 高木彬光コレクション (光文社文庫)

  • 作者: 高木 彬光
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2006/04/12
  • メディア: 文庫


プロローグでの怪奇ムードの盛り上げも、自称詩人が書き残した犯罪計画を匂わす詩も(“人形担いでえっさっさ”だもんね。)、松下研三が結婚式を妨害するシーンも、ひとつひとつを取り上げてみればセンスがないけれど、全編にみなぎる熱気がものすごい。
高木彬光の場合、このみなぎる筆の勢いがあるかないかが、傑作か否かをわける分水嶺です。
『人形はなぜ殺される』の第二幕に匹敵する謎は、『刺青殺人事件』の心理密室と、『甲冑殺人事件』の第一幕くらいしか思いつかないと神津恭介に言わしめる自信。
(ところで『刺青殺人事件』の優れているポイントは、モダン・ディテクティヴ・ストーリー的にみると、風呂場の密室ではなく、刺青をめぐるトリックです。
かつて土曜ワイド劇場で神津恭介を演じた近藤正臣の「研三君、入れ墨は消せるんだよ」のセリフが忘れられません。
『甲冑殺人事件』は、神津恭介シリーズの“書かれざる事件簿”ですね。ぜひとも読みたかった。)

いま冷静に読むと、じつは神津恭介の推理はそれほど論理的ではないし、犯人が実際にとった行動についての説明がかなり粗い。
それでもここには探偵小説の面白さが詰まっています。
見えない犯人と名探偵の知的闘争、首なし死体、奇術師と降霊会、「ひひひひ」と笑うせむし男。
二度にわたる読者への挑戦状。
高木彬光らしからぬキレのある題名『人形はなぜ殺される』
文章も、このころになるとだいぶこなれてきてます。

衒学的な趣味を横溢させたり、技巧的な文章を凝らしたりしなくても、良き本格ミステリが書けるという勇気づけられる作品です。
現代では映像化不可能というわれた『点と線』がドラマ化されましたので、この『人形はなぜ殺される』もCGを駆使してでもぜひ完全映像化を期待です。

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『呪縛の家』 高木彬光 [高木彬光]

高木彬光の『呪縛の家』を読みました。
3度目になります。

名探偵・神津恭介が登場する長編としては第2作目。
戦前、戦中に隆盛を極めながらも、戦後すっかり没落した紅霊教という新興宗教の本部で起こる連続殺人。
すっかり信用を失墜した紅霊教の教祖。彼の3人の孫娘が殺害されるという予言が、破門された教祖の縁者の口から発せられる。教祖の親戚で、一高時代の友人でもある人物から助けを求められた松下研三が山奥の本部を訪ねると、さっそく密室殺人が発生。
と、あまりのもコテコテの本格探偵小説。

昭和25年の連載中にも、そのコテコテぶりに批判があったそうですが、冷静に今読むと、1990年ころの“新本格ブーム”にノベルスで出版してもそのまま通用しそうな小説です。
ある意味、早すぎた作品とも言えましょう(皮肉も込みで)。

「読者への挑戦」が2度にわたって挿入されている“犯人当て小説”でもあります。
しかし、フェアな書き方はされていません。
とくに、第1の殺人の密室の状況の説明が不十分です。
かなり妄想たくましくしないと、真相に思い当たらないでしょう。
まあ、詳しく書けば、すぐに判ってしまうからなんでしょうけれど。

2度目の「読者への挑戦」の中で、高木彬光は、
「諸君は謎が解けましたか。なに、わからないって。困りますね。そんなに勘が悪くちゃ。(中略)ここまで書いてわからないようじゃ、頭がどうかしています。」
と書いてます。
まあ、当時の高木彬光の若さというか、なんと言うか。
いまの作家がこんなことかいたら、その作家のブログは炎上することでしょう。

「勘がわるくちゃ」と高木が書いているとおり、このミステリの謎は、エラリイ・クイーン流のロジックでは解けません。本当に「勘」が必要です。


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