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『黒い白鳥』 鮎川哲也 [鮎川哲也]

読書帳を見たら、なんと5度目の再読でした。

黒い白鳥 (創元推理文庫)

黒い白鳥 (創元推理文庫)

  • 作者: 鮎川 哲也
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2002/03
  • メディア: 文庫


代表長編を多いと4、5回も再読する作家が、私には3人います。
横溝正史、高木彬光、鮎川哲也です。
「横溝・高木・鮎川スクール」という言葉があったそうですが、まぎれもなく戦後本格を代表する3人であり、中学高校時代の少年・編集責任者を育ててくれたのは、まさにこの3人の巨匠でした。

5回目になりますが、(再読としては)今回がもっとも楽しめたかもしれません。
事件を多視点で浮かび上がらせていき、刑事たちは地に足の着いた堅実な捜査を続けます。
現代本格と比べると、スピード感はありませんが、炙り出しのように徐々に事件の輪郭が明確になっていく様子はたいへん面白い。
リアリズム捜査小説かと思いきや、その中にしっかり手がかりを蒔いている。
これがまぎれもない本格ミステリーであることが分かります。

第一の殺人(陸橋から死体を列車の屋根に投げ降ろす)で、被害者の替え玉が中華蕎麦を食べているのを偶然目撃される、というエピソードをすっかり忘れていました。この出来事の読者への見せ方が上手い。
こういう細かいところまで、よく作り込まれた傑作です。

初めて読んだのは、角川文庫版。
この版に掲載された時刻表は、巻末にまとめられていました。
(普通は、関係する場面のところに必要なページだけ差し込む)
ちょうどミニ時刻表のような感じで、3、4ページにわたって時刻表が続いていたのです。
犯人がアリバイを説明するシーンでは、こちらも時刻表を開くがごとく、巻末のページをめくったことを思い出します。
時刻表が何度も駆使されている、時刻表ミステリーの王、『黒い白鳥』だからこそ味わえる醍醐味でした。
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「赤い密室」 鮎川哲也 [鮎川哲也]

最近、SFや歴史小説では収穫がありながら、肝心のミステリーで良い作品に巡り会えず、煮詰まった感があり悶々としておりました。
そんなときは原点回帰、ということで、鮎川哲也の「赤い密室」をセレクト。

赤い密室―名探偵・星影龍三全集〈1〉 (名探偵・星影竜三全集 (1))

赤い密室―名探偵・星影龍三全集〈1〉 (名探偵・星影竜三全集 (1))

  • 作者: 鮎川 哲也
  • 出版社/メーカー: 出版芸術社
  • 発売日: 1996/08
  • メディア: 単行本


再読で、4回目なのにもかかわらず、これがまた、とても面白く読めました。

複雑な犯罪計画を、わかりやすく、コンパクトにまとめてあります。読んでて、戸惑うことなく、テンポがいい。
1954年(昭和29年)の作品。
同時期の下手な作家の密室モノだと、状況の説明を読んでいるだけで、かったるくなるものです。
日本探偵小説クラブ賞の候補作になっていて、残念ながら受賞は逃しました。選考委員の意見として、「もっと長くしたらよかったのに」というものがあったそうですが、逆にこのシンプルさが良いと思います。

登場人物は少なく、容疑者は学生3人と用務員の計4人。そのほかに、指導教授が1人。
それぞれが事件の構成要素として必然の存在であり、不要な人物はひとりもいません。
舞台となっているのは大学医学部の解剖室。
そこが死体発見現場に設定されていることも、屍体がバラバラにされていたことの真の意味をカムフラージュするのに役立っています。

作品世界のピースが事件の真相にすべて収斂していく、本格ミステリーの美学を表した、古典的傑作のひとつです。
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『戌神はなにを見たか』 鮎川哲也 [鮎川哲也]

鮎川哲也の『戌神はなにを見たか』を再読しました。
はるか昔に講談社文庫版で読んで以来。犯人もトリックもすっかり忘れておりました。
20130111.jpg
1976年、講談社「推理小説特別書下ろしシリーズ」の一冊として発表されました。鮎川哲也の作品中、最長の作品です。
長さに比例した、充実した内容を期待すると残念なことになりそうです。正直、出来はかなり低調です。
私は鮎川哲也に私淑しておりますが、ひいき目に見ても『戌神はなにを見たか』は平凡な作品です。

1960年代は傑作を連発していた鮎川哲也ですが、1970年代は長編の発表のペースもがくっと落ち、質も低調になっていきます。

とにかく冗長。捜査の過程が回りくどく書かれています。真相に迫る捜査のサスペンスは感じられず、真相の周りをぐるぐると周回しているだけの印象を受けます。
重要な証人にたどり着く経路が、いたずらに複雑に書かれていて、作品のテンポを失わせています。

アリバイ崩しであまり多用するといけないのは、犯人でない人物に対する捜査、その人物を捜査対象から除外するために行われた捜査に筆を費やすこと。
容疑者が、A、B、Cといて、まずAについてこれこれこのように捜査したが、完全なアリバイがあって犯人ではなかった。さらにBについてもかくかくしかじか捜査したが犯人ではなかった。それ以降、AとBは、小説にまったく登場しなくなる。
現実捜査はまさにそうなのでしょうけれど、これをやられると読者は拍子抜けします。いままで、こいつのアリバイが偽装なのかと思って、舐めるように読んでいたのに、事件とは関係なかった、となると脱力ですね。

これがフーダニットなら、最後までレッド・ヘリングとして機能するかもしれませんが、アリバイ崩しの場合まったく無駄な部分になってしまいます。

『戌神~』では、これに近い部分がけっこうあって、肩すかしをされました。
さすがに鮎川哲也ですから、まったく無関係というわけではないのですが、長くなったのはそのせいかと考えてしまうわけです。

さらに、アリバイトリックが弱い。鮎川の長編では、最弱のアリバイトリックではないでしょうか。
鮎川お得意の写真によるアリバイ証明のパターンなのですが、アリバイが崩されるポイントがミステリとしては安易。

とまあ、きびしいことを書きましたが、それは鮎川哲也ゆえに求めるレベルであって、丹那刑事の渋い捜査出張のシーンは、まいどまいど楽しく読みました。
『黒いトランク』や『黒い白鳥』などエース級の作品でなくても、しばらくすると手にとって読み返したくなる魅力が、鮎川哲也のアリバイ崩しにはあります。



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『りら荘事件』 鮎川哲也 [鮎川哲也]

鮎川哲也の代表作『りら荘事件』を再読しました。
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『探偵実話』に連載後、1958年に刊行。54年前の作品です。
ちなみにこの年には、松本清張の『点と線』『眼の壁』も刊行されています。

舞台は、大学が所有する宿泊施設「りら荘」。そこへ避暑に訪れた大学生7人が連続殺人に巻きこまれる。
地元警察(埼玉県警と秩父署)では手におえず、素人探偵・星影龍三に応援を依頼。
という、フォーマットとしてはきわめてオーソドックスで、当時としても新味のある設定とは言えません。
「古いミステリ」という批判もあったようですが、逆にこのようなフォーマットだからこそ、作者の手腕が試され、そのテクニックがよく判るというものです。

高木彬光や島田荘司が得意とする“大トリック”はありません。
小さなトリックを積み重ねて完全犯罪を構築していくタイプのミステリです。
そして登場人物たちの不可解な行動、発言を謎として提示。
最後におびただしい数の伏線を回収し、一貫した犯罪計画を浮かび上がらせる手腕は、やはり「本格派の驍将」である鮎川哲也ならでは。
パズラーとしての完成度は、オールタイムベスト級。オーソドックスなフォーマットゆえ、同時代の本格ミステリと比較して知名度がやや劣るかもしれません。

フーダニットの傑作『りら荘事件』をものにした鮎川哲也ですが、その適性はやはりアリバイ崩しにあることはこの長編からも判ります。
数ある小トリックのうち、メインとなっている最大のモノは、分類すればアリバイトリック。
犯人は、自分に強固なアリバイを用意することによって容疑の圏外に逃れることを目論んでおり、広い意味でのアリバイ物。
これは同じ名探偵・星影龍三が登場する『朱の絶筆』(1979年)も同様です。

いずれにしても、パズラーとしてのテクニックをむき出しにして勝負するさまは、現在では、「端正な本格」と呼ばれ、法月綸太郎の『キングを探せ』や綾辻行人の『奇面館の殺人』などの作例があり、じつは『りら荘事件』はたいへん新しい作品とも言えるかもしれません。

さて、私は今回、創元推理文庫で読みましたが、『りら荘事件』は12回も刊行されているそうです。
文庫版では、角川文庫、講談社文庫で絶版となっています。
私の大好きな作家であり、わが国のミステリ史においてもきわめて重要な作家の代表作であるので、いつの時代も若い読者が簡単に手に取れる環境が大事です。
創元推理文庫なら、絶版になることはない、と確信しています。

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『準急ながら』 鮎川哲也 [鮎川哲也]

鮎川哲也の『準急ながら』を再読しました。3回目です。
1966年(昭和41年)の長編です。
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中期の名作、『死のある風景』(1965年)と『鍵孔のない扉』(1969年)の間に位置する作品。
鮎川哲也の長編アリバイ崩しには、代表的なパターンがあります。
殺人事件が2件発生し、どちらにも周到なアリバイトリックが仕込まれているというもの。
ふたつの事件うち、時刻表をからめた鉄道トリックはどちらかひとつだけというパターンが多いですが(『砂の城』など)、『黒い白鳥』のようにふたつとも独創的な鉄道トリックで彩られているものもあります。

さて、この『準急ながら』は、このパターンにあてはまりません。
殺人事件は2件発生するものの、1件は毒入りのカプセルを与えておいて、いつ飲んでもかまわない、という犯行です。犯人はアリバイ工作はしていません。
もう1件の殺人にはアリバイトリックが使用されています。容疑者は、いま東京駅を出発しようとする「準急ながら」の前で写真撮影をしており、その時刻からでは犯行現場の岐阜県にはとうてい間に合わない、というもの。

このアリバイトリックも鬼貫警部が本格的に検証を行うのが、最終章になってからで、全体のページ数も少ないことから、鮎川哲也の長編としては軽量級であることは否めません。

しかしながら、真犯人が浮かび上がるまでのプロットはあいかわらず上手く、また犯人がアリバイ工作を完璧なものにしようとするがあまり、かえって鬼貫警部に推理の手がかりを与えてしまうなど、名手・鮎川哲也の腕は冴えています。

また、この長編は犯人の設定において、松本清張の『点と線』と共通している部分があります。
詳しく書くとネタばれになるのでこれ以上触れませんが、もしお読みになる場合は、そのへんを気にしてみると面白いかもしれません。

さて、東京創元社のホームページに「鮎川哲也の長編ベスト3」というコーナーがあります。
第1位 『黒いトランク』
第2位 『死のある風景』
第3位 『黒い白鳥』
となっています。
私の現時点でのベスト3とぴたり一致するランキングです。
みなさんはいかがでしょうか。
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『人それを情死と呼ぶ』 鮎川哲也 [鮎川哲也]

【赤い彗星さんからの感想です。】

 鮎哲再読の第二弾として、『人それを情死と呼ぶ』をセレクトしてみました。
(筆者注:本稿には作品のトリックに言及している箇所があります)

人それを情死と呼ぶ 鬼貫警部事件簿―鮎川哲也コレクション (光文社文庫)

人それを情死と呼ぶ 鬼貫警部事件簿―鮎川哲也コレクション (光文社文庫)

  • 作者: 鮎川 哲也
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2001/07
  • メディア: 文庫


 まず簡単に粗筋を紹介しておきます。
 貝沼産業の販売部長、河辺遼吉が突如失踪し、数カ月後、女性と共に箱根山中で死体となって発見される。A省の汚職事件の中心人物の一人と見られていた遼吉の死は心中事件として片づけられたが、ふとしたことから兄の死に疑問を抱いた遼吉の妹、由美は義姉の照子と共に捜査に乗り出す。途中から遼吉と共に死体となって発見された女性、津山久子の義理の弟である本田正夫も捜査に加わり、三人は久子の交際相手が遼吉ではないことを久子が住んでいたアパートの管理人の証言から発見する。遼吉の死によって利益を得た二人の人物のどちらかが久子の真の交際相手であり、二人を殺した真犯人ではないか、そう推理した三人は管理人に首実検をさせ確証をつかもうとするが、その矢先、管理人が殺されてしまう。しかし、二人の容疑者には鉄壁のアリバイがあった。
 この後、鬼貫警部が登場し、事件は意外な展開を見せることになります。アリバイトリックだけでなく、フー・ダニットの面白さも満喫できる作品となっています。

 再読してみて思いましたが、女性二人を中心とした素人探偵の探偵行も楽しく、意外に良い作品です。とりわけ、トリックに中々の工夫が凝らされています。
 この作品にも鮎哲作品の常套として、二つの殺人に二つのトリックが配されています。一つは「関係性」を偽装するトリック、もう一つはおなじみのアリバイトリックです。ただ、こう書いただけでは何の事やら分からないでしょうから、もう少し詳しく説明します。

 まず「関係性」を偽装するトリックについてですが、これには二重の意味合いがあります。まず一つは、別々の場所で殺した(一人は自殺ですが)男女の死体を一緒に並べておくことで心中死体に見せかけるというもの。これだけなら『点と線』という先例があるので大したものではありませんが、偽装心中の相手役として汚職事件の渦中にいる男性を選ぶことで警察の捜査の焦点をずらすという目的も持たせているのが、鮎川哲也の独創と言って良い部分です。ある意味、後段のアリバイトリックより優れた仕掛けかもしれません。

 次にアリバイトリックですが、これもかなり独創的なものです。芦辺拓が鮎川哲也のトリックを分析した小論の中で「出来事による時間トリック」と名付けていましたが、ある行動を二回繰り返すことで時間を錯覚させるというものです。
 より詳しく言うと、日付のみを記憶させる証人と時間のみを記憶させる証人を用意することで、日付と時間を分割し、その接合点としてある行動を置くことで犯人のアリバイを偽造するという、かなりアクロバティックな構造を持つトリックとなっています。『砂の城』の週刊誌と鞄と鍵を使ったトリックと同様、人間の記憶の曖昧さをついたトリックであり、その分、確実性に欠けるトリックであるとも言えます。

 このように『人それを情死と呼ぶ』は(幾つかの欠点はありますが)なかなか見所のある作品でした。とかく社会派への過剰なまでの対抗意識を現わした「あとがき」ばかりに眼が向けられがちですが、もっと作品自体に眼を向けた批評があっても良いのではないでしょうか。


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『砂の城』 鮎川哲也 [鮎川哲也]

【今回は、久々に赤い彗星さんから感想をいただきました。まだ感想を掲載していない会員の皆さん、よろしくお願いします。】
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【伝説の角川文庫“足ニョキ表紙”。下半分の、標的のようなグルグル印は意味不明 by 編集責任者】

 どこかで編集責任者氏も書いていたと思いますが、私も折に触れて読み返す作家がいます。それが横溝正史と鮎川哲也です(この点も編責氏と同じ)。
 何というか、両氏の作品を読むと、ミステリーの「原点」というものを確認することが出来るのです。これだけミステリー世界が拡散してしまっている現在、新しい作品を追い続けていると自分の「立ち位置」というものを見失ってしまう時があります。そういう時に両氏の作品を読むことによって「原点」に立ち返るという訳です。

 そういう訳で鮎哲再読の一発目として選んだのが『砂の城』です。何故、『砂の城』を選んだのかというと、今回の再読のテーマが「初読のみのもの、および未読のものを読む」というものだからです。因みに読書ノートを確認したところ、「1992年9月16日読了」と書かれていました。なんと16年前です。大学に入りたての時で、大学の近くにあるI書店で当時絶版だった角川文庫の鮎哲作品をばりばり買いまくっていたことを思い出しました。時の流れは速いものです(涙)。

 さて、肝心の『砂の城』です。正直言うと、この作品に関する私の評価は、他の傑作群と比べるとそれほど高いものではありませんでした(だから一回しか読んでいない訳です)。何故か?その理由は、使われているトリックの質が他の鮎哲作品と比べてそれほど高いものと思われなかったということと、もう一点、トリックを見破る際の「着眼点」がそれほど良いものとは思えなかったからです(鮎哲作品における「着眼点」の優れた例としては、『死のある風景』の「鉛筆で書かれた頼信紙」、『鍵孔のない扉』の「シデムシ」等が挙げられます)。

 そうした印象は今回の再読でも覆ることはありませんでした。しかし、見直した部分もありました。それは、警察の克明な捜査が実に丹念に描かれていたことです。
 なにしろ、アリバイ破りものであるにも関わらず、最重要容疑者が浮かび上がるまでに物語の三分の一以上が費やされているのです。容疑者が判明してからも、槇と菱山という二人の刑事の執拗な捜査とそれが暗礁に乗り上げるまでが丹念に描かれ、その後、ようやく真打である鬼貫警部の登場となります。
 捜査の過程で様々な可能性が検討され、数多くの仮説が現れては消え、現れては消えていきます。そうした克明な捜査の描写を通して、逆説的に犯人の仕掛けたトリックの堅牢さが浮かび上がるという仕組みになっています。そうした点が巷に蔓延るトラベル・ミステリーとは一味も二味も違うところです。こうした忘れてしまっている細部を確認出来るのも、再読の良いところではないでしょうか。

 蛇足ですが、元本である中央公論社版も引っ張り出してぱらぱらめくっていたところ、島根や鳥取、京都の写真が挟み込まれていました。少しでも読者に旅行気分を味合わせようという趣向でしょうか。

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『薔薇荘殺人事件』 鮎川哲也 [鮎川哲也]

鮎川哲也の本格短編「薔薇荘殺人事件」を再読しました。

五つの時計―鮎川哲也短編傑作集〈1〉 (創元推理文庫)

五つの時計―鮎川哲也短編傑作集〈1〉 (創元推理文庫)

  • 作者: 鮎川 哲也
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1999/02
  • メディア: 文庫


創元推理文庫『五つの時計』は、「鮎川哲也短編傑作集」の第1巻です。鮎川哲也が昭和30年代、探偵小説専門誌「宝石」に発表した短編から傑作を集めたものです。
雪の密室物「白い密室」、鬼貫警部のアリバイ崩しが冴える「早春に死す」「愛に朽ちなん」「急行出雲」、人間消失テーマの傑作「道化師の檻」、典型的な嵐の山荘物「悪魔はここに」などが収録されています。

巻末の、北村薫、有栖川有栖、山口雅也の鼎談でも盛り上がってますが、鮎川哲也の作品を手に入れるのが難しい時代がありました。
彼らとは時代が異なりますが、私が鮎川哲也を読み始めたときは、ちょうど角川文庫の鮎川作品がのきなみ絶版になったころでした。
高校生だった私は、古本屋を回っては、角川文庫の緑色の背表紙を探したものです。
いまは幻の作品「呪縛再現」すら手に入る良い時代です。

さて、これらの作品は、「本格」という領域の中心部に位置する「本格」の教科書的作品。
近年「端正な本格」論議がありましたが、これらこそがまさしく「端正な本格」です。
私は『五つの時計』と傑作集第2巻の『下り“はつかり”』を、保存用と乱読用、それぞれ2冊ずつ所有しています。
ミステリをいろいろと読んで、その行方に戸惑ったときに原点を確認する意味で読みかえすのが、この2冊に収められた短編です。
今回は、フーダニットの大傑作「薔薇荘殺人事件」を再読しました。

クラシカルなバズラーや密室物のときに鮎川が起用する名探偵が星影龍三です。
気持ちの良いくらい「推理機械」に徹した名探偵で、私の好きな名探偵のひとりです。
『五つの時計』では、「白い密室」「道化師の檻」「悪魔はここに」で活躍しています。この「薔薇荘殺人事件」でも星影氏の推理を堪能できます。


~~~~以下、「薔薇荘殺人事件」の真相にふれますのでご注意ください~~~~


「薔薇荘殺人事件」の犯人特定のアイデアは古典的ミステリではおなじみの色盲を利用したものです。
しかし、ただそれだけでなく、巧妙な叙述トリックをからめて、犯人を読者から隠蔽しています。
小説の冒頭では、事件解決後の「今」を描いており、そこではワトソン役が舞台となった薔薇荘の主人田代氏と会話をしています。
当然、田代氏は犯人ではないわけですが、このあと続くワトソン役の当時の日記では偽の「田代」が出てきております。素直に読む限りでは田代氏と偽「田代」を読者は区別することはできません。
ですので普通は、まず「田代」を容疑者のリストから読者は外してしまいます。
広義の「バールストン・ギャンビット」ですね。
叙述トリックの効果をうまく使っています。

鮎川哲也は他にも「達也が嗤う」でフーダニットのバズラーに叙述トリックをしかけています。
英米でも叙述トリックを用いた作品はあります。
しかし、本格ミステリのメイントリックとしてこれほど盛んに用いられているのは、日本ミステリの特徴かもしれません。

叙述トリックは1990年代以降、いわゆる「新本格」の隆盛の中でメジャーなトリックとなりましたが、日本では昭和20年代の高木彬光「妖婦の宿」をはじめとして叙述トリックの歴史は古い。
一度、きちんと叙述トリックを整理してみると面白いかもしれません。



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『砂の城』 鮎川哲也 [鮎川哲也]

鮎川哲也の長編『砂の城』を再読しました。
鬼貫警部が登場するアリバイ崩し長編に多いのは、殺人事件が2件発生し、それぞれによく練られたアリバイトリックが用意されているというパターンですが、この『砂の城』は典型です。

第1の殺人では、お馴染みの時刻表がトリックにからんできています。
ある特急に乗らないと犯行に間に合わないのだが、犯人がその特急に乗れなかったのは事実。はたして犯人はどうやってその特急に追いついたのか。

第2の殺人は、第1のアリバイほど派手ではありませんが、1冊の週刊誌をめぐる細かい手順で作り上げられたアリバイトリックで、時刻表トリックよりも、こちらのほうがミステリ的にはよいトリックになっています。
時刻表トリックのほうは結局単純なもので、悪く言えばハードな鉄道マニアなら知っている人もけっこういるのではないかという程度のアイデアを利用しているにすぎません。警察が根をつめて調べ上げれば、いつかは必ず判明することであり、この程度のトリックで殺人を実行してしまう犯人に驚きさえ感じます。

一方、第2の殺人の週刊誌をめぐるトリックも、練られてはいるものの、基本的な仕掛けは、ほとんどの読者が直感的に見抜くでしょう。さらに、複数の人の記憶が曖昧になっていることを前提にしているので、もしそのうちの1人でも日付を正確に記憶していたら成立しない、という危うさがあります。

このたありが、よく考えられてはいるものの、同じ中期の傑作『死のある風景』などと比べると、いまいち人気がない理由でしょうか。

また、『砂の城』あたりからは、後期の鮎川長編の悪い癖が出始めています。
鮎川の趣味のレコード集めや声楽の蘊蓄が登場人物の口から蕩々と語られるシーンが見受けられます。
それまでのリズムのある捜査がぱたっと止まってしまい、あまり良い処理とは思えません。

などなど、鮎川作品ゆえ、厳しいことを書きましたが、アリバイ崩しとしては、他の作家の追随を許さぬ面白さ仕上がっています。


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『朱の絶筆』 鮎川哲也 [鮎川哲也]

今月の光文社文庫の最新刊として、鮎川哲也の長編本格ミステリ 『朱の絶筆』 が出版されました。

表紙は題名を意識してか、赤っぽい色です。

祥伝社文庫と講談社文庫から出ていたことがありますが、現在はいずれも絶版になっておりますので、よい企画でした。
(私はその2冊とも持っていますが、今回、光文社文庫版も購入。 『朱の絶筆』が本棚に仲良く3冊並んでいます。)

鮎川哲也の〈星影龍三シリーズ〉は、もうひとつの長編 『りら荘事件』 が創元推理文庫に入ったばかりですし、短編は主要なものなら創元推理文庫(『五つの時計』と『下り“はつかり”』)で読めますので、未読の方はこれを機に取り組んでみてはいかがでしょうか。

さて、〈星影龍三シリーズ〉といえば、幻の長編 『白の恐怖』 に触れねばなりません。
星影モノの第2長編で、昭和34年に刊行された短めの長編本格ですが、昭和42年に「日本文華社」(知らん!)から「文華新書」として出版されたのを最後に、ぱたりと消えてしまいました。
なんでも、鮎川哲也がそのテギに満足しておらず、再刊するなら徹底的に書き直してから、と言っていたそうで、実際、『白樺荘事件』という仮題で書き直していたそうですが、ついに完成することはありませんでした(鮎川哲也は2002年に永眠)。
探偵役が星影から〈三番館のバーテン〉に交代していた、とか、他の推理作家が引き継いで完成させる、とか、いろいろな都市伝説が広まっています。

作者の遺志を大切にすることも大事ですが、一人のファンとしてはぜひとも読みたいですね。というか、新刊で入手したいです。
できれば、『白の恐怖』と中絶作『白樺荘事件』を合本で。
東京創元社あたりにぜひともお願いしたいところです。


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