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「刑事の勲章」 横山秀夫 [横山秀夫]

D県警シリーズの短編が電子書籍ストアから配信されたので購入しました。

刑事の勲章 D県警シリーズ (文春e-Books)

刑事の勲章 D県警シリーズ (文春e-Books)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • メディア: Kindle版


「オール読物」の2002年2月号に掲載されたまま、単行本に未収録だった作品。
文春文庫『影の季節』を新装版で出し直し、そのとき追加収録してもよさそうな気がします。
横山秀夫の健康が回復し、D県警シリーズが書きためられてから短編集として出版する予定だったのかもしれません。
いずれにしても、そのあたりの事情にとらわれることなく販売できるのが電子書籍の利点。

さて、内容です。
まずは水準以上のデキ。
傑作とまではもうしませんが、「完成度が低いため、出版を見合わせていた…」というものでないのは明らかです。

D県警の人事を陰で牛耳る二渡の懐刀だった主人公が、昇任に伴って畑違いの刑事部に異動。
飲み屋の女との、一度だけの情事への懲罰かと、彼はいぶかる。

人事への不満、畑違いの仕事での戸惑い、焦り、功名心が主人公を襲う。
彼の葛藤に、管内で発生していた殺人事件の謎がからむ…

いつもの横山節であり、新味がないといえばそれまでですが、私はあいかわらず楽しく読みました。
よくまあ短い枚数でこれだけの物語を語れるものです。
そして題名。
「刑事の勲章」、はじめて目にしたときは、ちょっと野暮ったいかな、と思いました。が、読了すると、これ以外無いと了解。じつに巧妙です。

私も会社の人事部門に長くいたので、たいへんよく事情がわかります。
これでミステリーが作れるのか、と驚嘆です。

こうした短編もうれしいプレゼントですが、
やっぱり、横山秀夫の新作を首を長くしてお待ちしています。
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『第三の時効』 横山秀夫 [横山秀夫]

横山秀夫の神髄に迫り、そのワザを少しでも盗めれば、という淡い期待もこめて、『第三の時効』、『臨場』、『看守眼』の3冊の短編集を続けて読みました。

第三の時効 (集英社文庫)

第三の時効 (集英社文庫)

  • 作者: 横山 秀夫
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2006/03/17
  • メディア: 文庫


『第三の時効』と『臨場』はもちろん再読で、『看守眼』は読んでいたつもりでしたが、初読であった。
『第三の時効』はコメントするまでもない名作。
宝島社『この警察小説がすごい!』1位。『東西ミステリー・ベスト100』では、並み居る古典を押しのけて52位。
昨年の『このミステリーがすごい!』で特集された、オールタイムのベスト短編を選ぶ企画では表題作の「第三の時効」が9位。

もちろん「第三の時効」がほかより頭ひとつもふたつも抜けています。が、「沈黙のアリバイ」や「密室の抜け穴」もいい。

『臨場』は、ダイイング・メッセージを扱った、本格ミステリー「鉢植えの女」が白眉。
「赤い名刺」、「真夜中の調書」も秀逸。

『看守眼』は、連作ではないせいか、知名度は低いですが、なかなかの水準作を集めた短編集。

さすがに3冊続けて読むと、横山秀夫の話の作り方に慣れてきて、伏線が透けてくるようになりました。それでも真相が読めないところが見事。最後の短編「秘書課の男」でもまんまと騙されました。

どの短編も短い枚数なのに、主筋の事件のほかに、視点を置いた主人公が抱える問題を書き込む。事件解決とともに、主人公の問題も晴れる。よくできた構造です。
簡潔な描写、短いセリフでも、人物がはっきりと浮かび上がる。
短編小説のお手本のひとつです。


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『64』 横山秀夫 [横山秀夫]

刊行予定が出版社からアナウンスされていながら、数年間沈黙が続き、半ば“幻の長編”となっていた作品がついに刊行されました。『震度0』以来、7年ぶりの新作長編です。
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「何々の最高峰!」というフレーズが安易に使われることがありますが、『64』に関しては「警察小説の最高峰」といって問題はないでしょう。横山秀夫の最高傑作というだけでなく、ブームのもとに量産された、あまたの警察小説が顔色をなくした、そんな気さえします。

『陰の季節』、『顔 FACE』でおなじみの、D県警シリーズです。
あの二渡警視も登場し、思わずニヤリ。
「64(ロクヨン)」とは、7日間しかなかった昭和64年にD県で発生した誘拐殺人事件の隠語。未解決の事件。あと1年で時効を迎えるに当たり、警察庁長官が激励のため訪問する計画がD県警に伝えられる。
主人公の三上警視は、広報官。長官訪問の段取りを整えていくうちに、様々なトラブルが発生し、その向こうに陰謀がちらつく……。

明晰な短い文章による文体のキレはさらに増し、多くの登場人物と同時並行する複数のプロットをたくみに操るワザはさらに冴えております。

重厚な小説です。
さくさく読めるものではなく、私も序盤は時間をかけてじっくり読みました。
登場人物をしっかりイメージながら、丁寧に読む。読者にそうさせる力を、この小説は冒頭から持っています。

三上警視の娘の失踪。妻との微妙な関係。記者たちとの対峙。警務部vs刑事部の対立。そして「ロクヨン」。複数のプロットが絶妙に響き合っています。良く出来た交響曲を聴いたような読後感でした。
詳しく書けませんが、あるエピソードは読者から真相を隠す効果を持っていて、『第三の時効』などで発揮された本格ミステリの技法も冴えまくります。

後半、リアルタイムで進行するある事件が発生してからは、もう警察小説という枠組みを飛び越えて、ジェフリー・ディーヴァーも真っ青の、ハイテンションなサスペンス・ノベル。
ラストで、張り巡らされた伏線が、一点に収斂するさまは、もう芸術品。

ここ10年で最高のエンターテイメントの収穫であり、今後、長く語られる作品となるでしょう。


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『半落ち』 横山秀夫 [横山秀夫]

先日、テレビ朝日でドラマ化されましたね。
録画したのを観る前に原作をチェックしておこうと、4年ぶりに読み返してみました。

半落ち

半落ち

  • 作者: 横山 秀夫
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2002/09
  • メディア: 単行本


再読ですが、やはり面白い。ほぼ1日で読み切りました。
横山秀夫の第1長編です。
それぞれ異なる人物の視点から語られる6つの章で構成されています。
縦糸のしっかりした連作短編集を得意とする作者ならではの長編執筆方法ということなのでしょうか。
“半落ち”のまま空白の2日間について黙して語らない梶警部と関わる6人の物語を描くことによって、梶が抱えた秘密を浮かび上がらせます。

最近、やたらと長大な小説が目立ちますが、『半落ち』は6人の男たちについて語りながらも、コンパクトにまとめられております。長々と書かずとも、短く選び抜かれた言葉でびしっと語られれば、しっかりと読者に届きます。
そして、横山秀夫は文章に力があります。読んでいて、ページから押されているような。
不覚にも再読だというのに、ラストでは再び涙ぐんでしまいましたよ……。

あえてミステリ的仕掛けにこだわって読んだとき、空白の2日間の謎が唐突にラストシーンで説明されるため、謎が少しずつ解かれていく「本格モノ」のような構造を持たない点が残念かもしれません。
しかし、真相を知れば納得する伏線がしっかり張られていることが判ります。
犯人も殺害方法も犯行動機も判っていて、ただ「2日間どうしていたのか?」という謎だけで、これだけサスペンス豊かな長編を生み出せる力に瞠目です。

横山秀夫は最近まで病気療養中だったらしく、新作の出版が止まっておりましたが、『このミステリーがすごい!』の本人談によれば、そろそろ活動再開とのこと。
たいへん楽しみな作家であります。


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『クライマーズ・ハイ』 横山秀夫 [横山秀夫]

横山秀夫の『クライマーズ・ハイ』を読みました。

主人公の悠木は、群馬県の地方紙、北関東新聞の記者。
「日本航空123便、群馬県の御巣鷹山に墜落」というニュースに、北関東新聞は悠木を全権デスクに据え、全社をあげて日航事故の報道にかかります。
いつもの“N県”とかのアルファベット表記ではなく、真っ向勝負のつもりか、地元の群馬県が舞台であることをはっきり書いております(書かざるをえませんよね)。ちなみに、北関東新聞は架空の新聞社で、横山が勤務していた上毛新聞のライバルという設定です。

ミステリでも、横山得意の警察小説でもありませんが、サスペンスは横溢し、一気に読了しました。
社内の部局間のメンツ、「社長派」対「専務派」の抗争、若手記者の暴走、悠木の友人の入院、家庭のごたごた、などなど、取材以外の事柄が悠木のもとに一気にふりかかり、まるで冒険小説のように手に汗握る展開。
群馬県らしく、「中曽根派」と「福田派」の対立なんてのもあります。

『陰の季節』の「鞄」などもそうですが、堅いだけの退屈な話になりかねない素材を、サスペンス豊かなプロットに構築する技量には、舌を巻きます。
横山秀夫は、いま日本でもっとも脂ののっているストーリーテラーのひとりであることは間違いないでしょう。
光るエピソードが惜しげもなく積み重ねられており、この作品にかける横山の念のようなものを感じました。ばらばらにして使えば、短編が10編くらい書けそうです。

また、この長編は、一貫して悠木の視点で語られています。
多視点を駆使するのが「横山スタイル」ですので、これはちょっと意外でした。サスペンスが持続しているのも、そのせいかもしれませんね。

ただ、これは欠点とうわけではありませんが、やはりミステリ畑の作者らしく、最後に予定調和的に様々なエピソードがつながるのが、このようなノンフィクション風な小説だと、やや作り物のような感があるかもしれません。私はそういう小説は好きですけれど。

ということで、評価は ★★★★ です。
早く新作長編が読みたいものです。




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横山秀夫 『震度0』を読了 [横山秀夫]

阪神・淡路大震災が発生したその朝、震源から700キロも離れたN県警の警務課長が失踪。
警察幹部に激震が走る。
キャリア、準キャリア、ノンキャリアの間で繰り広げられる激しい情報戦を、警察本部の庁舎と
官舎(幹部用の住宅)の2か所のみを舞台に描いた、横山秀夫の長編小説です。
『震度0』朝日新聞社
警務課というのは、刑事畑でも公安畑でもありませんが、人事権を一手に握っている重要なセクションで、警務課長といえば組織の要(かなめ)。

「このミステリーがすごい」では堂々の3位に輝いております。
なにせ、県警の庁舎と官舎の中だけで話が進むので、中盤まで読み進めるのがしんどいかも。
後半からは謎が深まっていき、一気に読ませます。
ただし、「謎を解く」ことには重心が置かれていないので、本格好きなミステリ読者からすると、もの足りないかもしれません。

それにしても、あいかわらず「多視点」を使うのが上手い書き手です。
下手な人が使うと、感情移入できないうちに話がポンポン飛んで、えらい目にあうものです。

横山秀夫の長編最高傑作と思われる『半落ち』に比べれば少し「落ち」ますが、なかなか読ませる小説でした。


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