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ジョン・ディクスン・カー ブログトップ

『黒死荘の殺人』 カーター・ディクスン [ジョン・ディクスン・カー]

創元推理文庫で新訳版が出ましたので、早速購入し、20数年ぶりに再読しました。
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長く、手に入れやすくてスタンダードになっていたのは、ハヤカワミステリ文庫版の『プレーグ・コートの殺人』。
しかし“プレーグ・コート”というカタカナ表記より、“黒死荘”という方が、オドロオドロしくて正解。

一般的に「ジョン・ディクスン・カー(カーター・ディクスン)」と聞いたとき、想起されるイメージが詰まった作品が『黒死荘の殺人』です。
幽霊屋敷、密室、降霊術、亡霊……
その意味では、カーの代表作といってよいでしょう。

オカルトの要素は扱いが表層的で怖さが伝わってきませんが、恐怖を書き込み、ホラー色を強めすぎると、謎解きの興味が薄れかねませんので、ちょうどよいバランスかもしれません。
この絶妙なブレンドが世界中のファンの心をつかんでいる理由のひとつかな。

パズラーとしてのデキは、やはり『三つの棺』や『ユダの窓』に比べれば落ちます。
有名な密室トリックは、奇妙な凶器のワンアイデアだし、第二の殺人とそれに連動している犯人の隠蔽は伏線不足で唐突な感があります。
ただ、プロットはきわめて簡潔で、ストーリーはわかりやすく、全体の完成度を押し上げています。

さて、私がこの作品で一番気に入っているのが、ヘンリー・メリヴェール卿(H・M)、長編初登場というところ。
H・Mのプロフィールについてしっかり書き込んであります。
ミステリは、シャーロック・ホームズ・シリーズが象徴するように、キャラクター小説の面があることは否定できません。
きっとアメリカでは人気は出ない、アンチ・ヒーロー的なH・Mの発明こそ、カーの偉大な業績のひとつでしょう。

さて、余談ですが、この密室トリックは、1980年代に出版されていた山村正夫の悪名高い『トリック・ゲーム』というネタばらし本を中学時代に読み、知っていました。
あの本と出会わなければ、『黒死荘の殺人』をもっと楽しめたかもしれません……。



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『火刑法廷』 ジョン・ディクスン・カー [ジョン・ディクスン・カー]

ハヤカワ・ミステリ文庫から新訳版が刊行されました。
ちょうどJ・D・カーを再読しようかと思っていたので、さっそく読んでみました。約20年ぶりです。
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1937年の発表。本格ミステリの「黄金時代」の作品です。
アクの強さゆえか個性的な魅力の作品が多く、代表作の固定しない作家でしたが、このところの人気投票では、安定してカーの最大得票作品となっています。
ちなみに、私のカー・ベスト3は、
1 『三つの棺』
2 『火刑法廷』
3 『ユダの窓』
です。

『火刑法廷』は、他のカー作品以上にオカルト趣味が横溢。
この作品では、ユーモアをほとんど封印しています。

そして、魅力的な不可能興味(壁に消える貴婦人、棺から消失した遺体)。
謎の設定がシンプルで、わかりやすい。しかもその不可能性は徹底している。まったくありえない状況であることが、読者にびしっと伝わってきます。

話の展開もゆるみがない。
視点が事件関係者のひとりに固定されているので、遺体消失の経緯がすんなり読者の頭の中に入ってきます。
ヴァン・ダイン流の、関係者からの尋問を繰り返すことによって事件の輪郭を浮かび上がらせる古典的な手法とは、リーダビリティーが違います。

そして解決がうまい。
特に、遺体消失のトリックは絶品で、名人芸のマジックのタネを解説されているかのようです。
カーは、初期作品に特に顕著ですが、不可能状況を生み出すのに多数の登場人物に複雑な動きをさせ、ある空隙を作ってそこを利用する、という手法を使います。
うまくいけば、『三つの棺』のような名作が誕生するものの、ごちゃごちゃとして魅力を損ねている作品があるものまた事実。

しかし、『火刑法廷』はきわめてクリアーなトリックで、読者にカタルシスを味あわせてくれます。

また、「壁に消える貴婦人」のトリックも、同種のトリックを使った名作『◇◇◇◎◆』の解法と比較すると、はるかに洗練されています。

そして、この作品の最大の問題というか魅力が最終章。
この章がなければ、おそらくカー・ベスト3に入るか入らないかというクラスにとどまっていたでしょう。
が、ぴりりと強烈なワサビがきいて、海外ミステリ・オールタイム・ベスト10級の作品に仕上がりました。
本格ミステリがあまり好きでないミステリ・ファンの方も、この機会にぜひご一読を。

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『魔女が笑う夜』 カーター・ディクスン [ジョン・ディクスン・カー]

ずっと気になっていた「知る人ぞ知る怪作」、カーター・ディクスンの『魔女が笑う夜』を読みました。
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この作品がどんなミステリなのか、まず著名人のコメントを紹介しましょう。
瀬戸川猛資は『夜明けの睡魔』でこんなふうに書いてます。
「知る人ぞ知る怪作。ちょっと信じがたいほど珍妙なトリックが登場する。チェスタトン風の奇想天外とはちがう。珍無類なのである。よくも、これほどバカなことを思いついたものだ。涙ぐましい、という気分すら起こさせる労作」

直木賞を受賞した北村薫は、「ミステリーズ! vol.34」の桜庭一樹との対談でこんなふうに言ってます。
「笑っちゃうんですよね。ほかの人じゃぜったい書けないでしょ。とんでもない作品です。これ、褒めてるんですよ。学生時代読んで感動しました。こんなこと書くのかよ、いい大人がと思って。しかもそれを刷って売ってると。おまけに、それを買って読んでるやつまでいる。俺だ(笑)」

どんなバカミスかと思いますが、ストーリーはけっこう地味です。
ストーク・ドルイドという英国の小さな村で、怪文書騒ぎが起きます。〈後家〉と署名された中傷の手紙が次々と村民に送られてきます。
その村の書店に貴重な古書があると聞いてやってきたのが、我らがヘンリー・メリヴェール卿。怪文書騒動に興味を持ち、解決に乗り出します。英国ミステリ伝統の“名探偵の休暇もの”の変形ですね。
H・Mは、登場シーンでいつものドタバタコメディをやらかしてくれます。
ただの寒いシーンとして終わる作品もありますが、『魔女が笑う夜』のドタバタはなかなか笑えます。
しかも、このシーンにも手がかりが隠されているところなどは秀逸。

〈後家〉は、村の名士の娘の寝室に深夜零時に現れる、と予告状を送ってきます。
もうこれは、江戸川乱歩の通俗長編のパターンですね。このあたりもスゴイ。
廊下と窓の外に警備の者たちがいるのにもかかわらず、零時に娘が〈後家〉を見たと悲鳴を上げ、警備の者が部屋の中に入りますが、〈後家〉の姿はなく……

J・D・カー(カーター・ディクスン)お得意の、密室ものです。
で、このトリックが「珍妙」なのです。
フジテレビで放送されたミステリ・ドラマ「33分探偵」で、名探偵・鞍馬六郎が番組を33分保たせるために、とんでもない間違ったいい加減な推理をいくつも展開しますが、その「いい加減な推理」レベルと言えば判りやすいでしょうか(判りにくい!?)。

冷静に考えると、そんなにうまくいくのか、という疑問もあります。
しかしそれよりまずスゴイのが、このトリックを長編に使うカーの度胸。
登場人物たちはもちろん大まじめで、真犯人もH・Mの推理を神妙に聞き入って、ちゃんと肯定してますし、シリアルに、どちらかといえば悲劇的に物語は終わります。
これが許せるかどうかが本格ミステリ愛好家かそうでないか、あるいはカーの愛読者かどうかの分水嶺かもしれません。
私は上記の二人のコメントを知っていたので、もっとひどいバカミスかと思っていましたが、まあこの程度ならいいのではないかと。
逆に、半世紀後、日本で流行した“バカミス”のムーブメントを先取りした作品のような気もしてきたりします。

純粋に本格ミステリとしては「怪作」かもしれません。しかし、怪文書に混乱する村の様子を多くの登場人物を描き分けて表現していますし、カーお得意のラブロマンスも、今回は二組のカップルの成立にこぎつけています。めでたし、めでたし。
事件らしい事件はなかなか発生しませんが、私はだれることなく面白く読めました。

とにかく話題に事欠かない作品だと思いますので、本格ミステリが好きな方で、未読でいらしたらぜひ読んでみてください。


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『ユダの窓』 カーター・ディクスン [ジョン・ディクスン・カー]

J・D・カーが、1938年にカーター・ディクスン名義で発表したクラシックの名作 『ユダの窓』 を再読しました。約20年ぶりです。
ヘンリー・メリヴェール卿が“ユダの窓”と隠喩する、この作品のトリックは、あまりにも有名です。
私もさすがにこのトリックは覚えていましたが、プロットはおろか、犯人が誰だったかすっかり忘れている始末。なので再読も楽しめました。

~~~~~~以下、真相に触れますので未読の方はご注意ください。~~~~~~

さて、カーといえば密室、とくにこの『ユダの窓』の場合、あの有名な密室トリックだけが特筆されがちであります。もちろん間違いではありませんが、この作品のメイントリック、「ドアのノブの軸を外して空いた“ユダの窓”からボウガンで矢を放った」、というトリックだけでは、やっと短編を支えるにすぎないアイデアでしょう。
この殺人計画の肝は、被害者とその弟が共謀して、容疑者の従兄弟をおとしいれようとした「計画」に真犯人が便乗して、その従兄弟に殺人容疑を着せてしまおう、とする点です。
さらに、被害者が、容疑者と従兄弟を取り違えたことから悲劇は深まりました。
被害者自身が策を練って結局犯人の計画に貢献してしまうというパターンに、従兄弟の入れ替わりという偶然をうまく融合させたプロットなのです。
これだけでも、例の“ユダの窓”のトリックがなくても、カーの筆ならA級の本格ミステリになったことでしょう。そこに大トリックが加わったことで、黄金期を代表する傑作となったわけです。

密室の状況もすばらしい。
死体と容疑者が内側から完全に施錠された部屋にいれば、疑いは間違いなく容疑者にかかります。密室にする必然性がとぼしいミステリが多い中、『ユダの窓』では、十分な必然性がありますね。

もうひとつ、これが優れた法廷ミステリである点もふれねばなりません。
このミステリのほとんどは刑事法廷を舞台に進行していきます。
われらがヘンリー・メリヴェール卿が容疑者の無実を勝ち取るべく、弁護士として立ち上がる物語であります。
検事のウォルター・ストーム、そしてボトキン判事とのやりとりが実にうまく構成されています。
検察側の証人により、被告人の絶望的な状況がまず強調されます。そして、ヘンリー・メリヴェール卿が被告人に有利な証人を喚問し、じょじょに検察側の訴因を崩していく様子は、現代の法廷ミステリと比較してもなんの遜色もありません。
証人たちが、弁護側の質問によって化けの皮をはがされていくところなどは圧巻ですね。

ディクスン・カーの作品には当たり外れがありますが、これは「当たり」の部類。
登場人物の描き分けも、しっかりしています。
ちなみに、犯人の意外性も十分。
『三つの棺』、『火刑法廷』と並ぶ、カー三大傑作のひとつで決まりでしょう。


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