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『恐怖の研究』 エラリー・クイーン [エラリー・クイーン]

今年は、シャーロック・ホームズが世に出てから130年。
130年前の1887年、『緋色の研究』が出版されております。

恐怖の研究 (ハヤカワ・ミステリ文庫 2-10)

恐怖の研究 (ハヤカワ・ミステリ文庫 2-10)

  • 作者: エラリイ・クイーン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1976/11
  • メディア: 文庫


そのせいか、東京創元社の『ミステリーズ』も早川書房の『ミステリマガジン』も最新刊は、シャーロック・ホームズの特集です。
NHKもイギリスBBC制作のドラマ『SHERLOCK』のシーズン4を放送(イギリスでの放送は昨年)、視聴者参加型推理ドラマ『謎解きLive』の最新作は『CATSと蘇ったモリアーティ』でした。

パロディ、パスティーシュといった二次創作の対象にされた頻度が史上最も高いキャラクターは、シャーロック・ホームズで間違いないでしょう。まさに不滅の名探偵。

名のあるミステリー作家も、自作にホームズを登場させています。
まだコナン・ドイル存命中にやらかして権利問題になった、モーリス・ルブラン。『ルパン対ホームズ』などで、堂々と登場しています。
完全なパスティーシュですが、ジョン・ディクスン・カーも『シャーロック・ホームズの功績』でホームズをよみがえらせています。

そして、エラリー・クイーン。
作品が有名ではないので、あまり知られていませんが、探偵エラリーとホームズが同じ事件を追う夢のコラボが実現しています。1966年発表の『恐怖の研究』です。
“真夏のシャーロック・ホームズ祭”ということで再読しました。

ある日、新作執筆にいそしむ探偵エラリーのもとに、ワトスン博士の未発表原稿が届く。
興味本位で読んでみると、あの「切り裂きジャック事件」の解明にホームズが乗り出す、という話。
まず小説『恐怖の研究』の前提を確認しておきますと、エラリーの住む世界では、シャーロック・ホームズとワトスンは実在の人物という扱い。
未発表原稿が本当にワトスンが執筆したモノか、という確認からお話は始まりますが、ここで厳密にぐだぐたやっても面白くないので、用紙が当時のものだとか、文体が明らかにワトスンのものだとかいう脆弱な論拠で、あっさりとクリアされます。

執筆に忙しいエラリーは、ワトスン博士の原稿を一章ないしは二章ごと、小刻みに読んでいきます。
つまり、読者はエラリーの章(20世紀)とホームズの章(19世紀)を交互に読んでいく形に。

ワトソンの原稿パートでは、ホームズとワトスンはもちろん、マイクロフト、ハドソン夫人、ワトソンの妻のメアリー、レストレード警部、ベーカー街イレギュラーズ、モリアーティ(言及のみ)など、ホームズ世界のキャラクターがオールキャストで登場。

エラリー・クイーン、シャーロック・ホームズ、切り裂きジャックという豪華盛り合わせなのに、なぜ知名度が低いのかといえば、ずばり、作品のデキがあまり良くないから。

もともとワトスンの原稿の部分は、映画のノベライズとした企画されたもので、執筆もクイーンではなく、ポール・W・フェアマンが小説化しています。
それを作中作にして、クイーンが外の皮を書いて挟んだ、というからくり。
「切り裂きジャック」を追うストーリーもいまいちだし、エラリーの部分もきわめて短く、やっつけ仕事の感があります。

そもそも『恐怖の研究』は、ペーパーバック書き下ろしで、どこまでクイーン本人が関与していたか怪しいところで、『二百万ドルの死者』同様、「聖典」ではなく「外典」として整理してもよい作品もしれません。

とはいえ、私はシャーロック・ホームズも好きだし、エラリー・クイーンも好き。
今回も、たいへん楽しく再読しました。

ちなみに、現在、絶版です。
訳があまり良くないので、新訳してくれると嬉しい(無理でしょうが……)
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『アメリカ銃の秘密』 エラリー・クイーン [エラリー・クイーン]

角川文庫から新訳で出版されているエラリー・クイーンの国名シリーズ。
今回刊行されたのは、第6作の『アメリカ銃の秘密』です。
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早速、読んでみました。
高校生以来、20数年ぶりの再読です。

『ローマ帽子』から『スペイン岬』までの9作品の中で、もっとも語られることが少ない作品ではないでしょうか。
私も、他の8作は2回以上再読していますが、『アメリカ銃』だけは初読したまま、そのままにしていました。

理由はいくつか思い浮かびます。
まず、展開にダイナミズムを感じないこと。
国名シリーズは、事件の捜査が進む中で、探偵エラリーが推理し、あるいは注目されていなかった事実を指摘し、事件の見え方ががらりと変わって捜査方針が立て直され、ストーリーが次のステージに進む、という展開をみせます。
本格ミステリらしいプロット構成です。

しかし、『アメリカ銃』では、2万人がひしめくスタジアムでの銃撃、凶器の消失など派手な舞台装置でスタートするものの、状況の確認に200ページ近くがついやされ、そのあとは、事件関係者の日常に接近するものの収穫なし、という退屈な流れが続きます。
読者を退屈させないためか、ロデオ、カウガール、ハリウッド女優、ヘビー級ボクシング、映画産業など、当時のピカピカのアメリカをたっぷり描写しています。
展開が通俗的なのです。

ようやく終盤で第二の殺人がありますが、これは第一の殺人とまったく同じ状況でおこったもの。
プロットに勢いがありません。

凶器消失のトリックは、物理的なワンアイデア。これは、正直すっかり忘れておりまして、再読でも見抜けなかった! まさか、クイーンがこんなトリックを使うとは思いませんでしたので。

唯一覚えていたのは、挿絵を使って解説される銃弾の入射角度に基づいた推理。
視覚的なものは印象に残ります。
ただ、この推理はあまり評判がよくない。というのも、ニュース映像を見れば、誰だってこれについて考慮しなければならないと気づくことでしょう。

と、まあ、あまりいいことを書きませんでしたが、正直もっと悪い作品だと思って再読を始めたところ、意外にもけっこうまとまっていました。
良い意味で裏切られました。
犯人の意外性にこだわって、アクロバティックな処理をしているところは、やはり国名シリーズにふさわしい作品です。
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『ギリシャ棺の秘密』 エラリー・クイーン [エラリー・クイーン]

角川文庫から快調なペースで刊行されている国名シリーズの新訳。
今回は、第4作、1932年発表のクイーンの代表作のひとつ、『ギリシャ棺の秘密』を読みました。
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今回で3回目になりますが、前回読んだのは20年近く前で、細部はすっかり忘れておりました。
意外すぎる犯人は記憶しておりましたので、今回は作者の手法に注意しながらじっくり再読することが可能でした。

正直なところ、同年発表の『エジプト十字架の秘密』、『Xの悲劇』、『Yの悲劇』、そして中期の傑作『十日間の不思議』『九尾の猫』と比較して、あまり高く評価はしていませんでした。しかし、再読の結果、たちまち評価はうなぎ登り。またまた「さすがクイーン」と唸ったのであります。

『ギリシャ棺の秘密』は、探偵エラリーと真犯人との四番勝負です。
エラリーまたは警察による犯人の指名が4回行われます。
1回目では、真犯人はエラリーが誤った推理を行うように、偽りの手がかりをしかけ、
2回目では、真犯人が凝った偽装工作をするものの、エラリーだけはひっかからず、
3回目では、エラリーが真犯人に罠をかけ、
4回目で、晴れて真犯人逮捕。
推理パズルが、独特のリズムとサスペンスを醸成し、他のジャンルの小説では体験できない独特の味わいをもっております。
600ページ近いクイーン最長の長編ですが、長さを感じず、どっぷりとのめり込めます。

ポイントは、さまざまな方が指摘しているとおりですが、私が興味を持ったのは、真犯人が完全犯罪を目指した手法です。
芸術家には作風がありますが、名犯人たちもしかり。
今作の真犯人は、偽アリバイを工作して身を守ったり、不可能犯罪を構成して自分が蚊帳の外になることはしません。
徹頭徹尾、無実の登場人物を犯人に仕立て上げることによって、嫌疑の外に立ち続けるのです。
アリバイや密室などのトリックが重んじられていた時代、日本では1980年代前半まではあまり注目されなかったタイプでしょう。
いまこうして読み返すと、『ギリシャ棺の秘密』の真犯人は、悪魔的に賢い人物。推理ロジックを駆使して無垢の人物たちを三度まで犯人に仕立て上げておるのです。

シャーロック・ホームズのライバルであるモリアーティ教授のような、濃いキャラクターに描いていれば、「名犯人」として読者の記憶にもっと深く刻まれたかもしれません。
しかし、クイーンはそういった印象に残る探偵物語を書くよりも、ひとつの推理の問題を作ることを選択したのです。
国名シリーズや悲劇四部作の大方の犯人たちと同様、読者の意識の外に漏れだしてしまうような、印象の薄いキャラクターにあえて仕立てることによって、“問題”の難易度は高まったのです。
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『フランス白粉の秘密』 エラリー・クイーン [エラリー・クイーン]

創元推理文庫と角川文庫から、ほぼ同じペースで「国名シリーズ」の新訳版が刊行されています。
『ローマ帽子』は創元で読んだので、『フランス白粉』は、こっちにしました。
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「悲劇シリーズ」同様、訳文は滑らかで引っかかる表現もなく、スムーズに読めます。

『フランス~』はエラリー・クイーンの第2作。デビュー作の『ローマ~』と比較すると格段の進化をとげています。
もっと退屈なストーリー展開かと昔の記憶で思いこんでいましたが、訳が良いせいもあるのでしょうけれど、次々に新事実が現れ、テンポ良く事件の輪郭が浮かび上がっていきます。
鮎川哲也の鬼貫警部シリーズもそうですが、本格ミステリには、事件が推理の対象として整理されていくまでの過程に独特なダイナミズムがあり、他のジャンルの小説にはない魅力となっています。
ヘタな作家だと冗長になりやすいですが、エラリー・クイーンの構成力を再確認できました。

社長夫人の遺体がショーウインドーに隠されていたことに必然性があり、モダン・ディテクティヴ・ストーリーの典型例となっています。

デパートの最上階での犯人の行動、浴室で髭を剃り、書斎とカード室で偽装工作を行い、デパートの売り場からあるものを調達して……などが、エラリーの推理によって再現されるところは素晴らしい。
現代の科学捜査なら、足跡や汗の付着などで犯行現場での犯人の動きが推定できるのでしょうけれど、エラリーは手がかりからの推理でやってのける。

クイーンの代表作のひとつとして評価を高めました。

『オランダ靴』、『ギリシア棺』の新訳も楽しみです。


★★★ 以下、真相について触れます ★★★


指紋採取用の粉(これが題名の“白粉”)を持っていたのは、デパート専属探偵だけ、という条件が、真犯人の特定に用いられます。
これは現代日本の私たちは知りようがない知識ですが、特にアンフェアだという話も聞いたことがないので、当時のアメリカでは一般的な知識だったのかもしれませんね。

エラリーの推理で、犯人が夜のデパート内でどのように行動したかがあぶり出されるシーンは、読んでいて興奮しました。暗闇にうごめく犯人が眼に浮かぶようです。
スプリングで閉まってしまうオートロックドアのせいで、犯人が取らねばならなかった行動から、犯人が単独犯であることを特定するあたり、本格ミステリの魅力に溢れた名推理です。

麻薬密売組織の計画が、うまくプロットに溶け込んで、ロジックの構成に寄与しているところは秀逸です。

さて、実行犯はもちろんデパート専属探偵なわけですが、共謀共同正犯といいますか、殺害を指示した麻薬組織の「黒幕」がいるところが、意外な驚き。
「黒幕」が逮捕されたのかは、小説では触れられていません。
犯行動機も、麻薬売買のルートを知ったフレンチ社長夫人を始末せよ、と「黒幕」から命令された、というもので、本格ミステリとしては珍しい。

しかし、初期クイーンの特徴のひとつですが、犯罪の背景や動機はどうでもいいのです。
推理によって真犯人を特定することが、すべてに優先されるミステリ。
本格ミステリの極北であり、それがために、国名シリーズは不滅なのでしょう。


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『ローマ帽子の謎』 エラリー・クイーン [エラリー・クイーン]

昨年(2011年)、創元推理文庫から刊行された新訳版の『ローマ帽子の謎』を読みました。
中学時代の初読以来、20ウン年ぶりの再読です。
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角川文庫で新訳された悲劇四部作もそうでしたが、とにかく読みやすいです。
少し前に、アガサ・クリスティの『白昼の悪魔』を再読しました。こちらは新装版ながら旧訳のままで、エルキュール・ポアロが
「平気の平左」
なんて言っているのに唖然!
ヴァン・ダインなどを翻訳した井上勇はあとがきに、日本語訳には寿命がある、と書いていましたがよほどの名訳でないかぎり、正しいのかもしれません。

『ローマの帽子の謎』は、ご存じのとおりクイーンのデビュー作で、国名シリーズ第一作。
ブロードウェイの劇場で、観客席にいた悪徳弁護士が毒殺される。生きている被害者が最後に確認されたときから死体発見まで劇場から出たものはおらず、犯人は、観客と役者、従業員などの劇場関係者に限定される。
しかし犯人は見事に手がかりを残さず、捜査は混迷。
被害者が被っていたシルクハットがどこからも見つからないという謎に、われらがエラリー・クイーンが注目する……。

殺人事件はこの一件のみで、事件当時の劇場の状況がじっくり描かれます。客や売り子などの証言、床に落ちていたゴミなど、細かな材料が丁寧に読者に提示されます。
デビュー作において、すでにクイーンの特徴がはっきりと出ています。
手がかりからの推理は、オーソドックスなもので、日本の新本格派が使うような“超論理”などふりかざす必要はありません。
挑戦型ミステリとしては、フェア精神充溢。

アイデアとしては、シルクハットをめぐるロジックのみなので、コンパクトに書けば、短編の分量でしょう。
国名シリーズとしては平均以下のデキかもしれませんが、作家クイーンがデビュー作から高い完成度をもっていたことが分かります。

ただ、まだ女性を描くのは得意でなかったらしく、『ローマ帽子の謎』に出てくるのは、箱入り娘のお嬢様か妖婦だけです。
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『レーン最後の事件』 エラリー・クイーン [エラリー・クイーン]

角川文庫のドルリー・レーン四部作の新訳企画もついに完結しました。
さっそく読み返してみました。高校生の以来、ほぼ25年ぶりの再読。
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『Zの悲劇』の感想でも書きましたが、とにかく読みやすい。
これが黄金時代の本格ミステリかと疑いたくなるくらいです。発表は1933年。
訳者の越前敏弥は、ベストセラー『ダ・ヴィンチ・コード』も翻訳してます。そういえば、『ダ・ヴィンチ・コード』も読みやすかった。

殺人事件が発生するのは、物語が4分の3ほど進んだところです。
それまでは、青ひげの男、不可解な暗号文、消えては現れる16世紀のシェークスピアの書籍など、細かな謎がストーリーを牽引していきます。

クイーンの初期代表作では、名探偵の推理により局面が拓けてストーリーが展開していくというダイナミズムが味わえますが、『レーン最後の事件』の前半は、どこかモーリス・ルブラン風。
ひっとらえた人物からの証言や発見された新事実でストーリーが駆動していく、一般的なミステリー。
ちょっとしたカーチェイスがあったり、ヒロインが銃撃されるシーンがあったりと、まあ派手な作りになってます。
初期のエラリー・クイーンには珍しいスタイルです。

ようやく殺人事件が発生すると、いつものクイーン節が堪能できます。
犯行現場の手がかりから、推理を重ねて事件を再構成していきますが、今回はその役目はレーンの愛弟子であるペイシェンス嬢の役目です。ドルリー・レーンは、ペイシェンスの推理にお墨付きを与えてあげるくらいで、かつての切れ味ある推理はすっかり影をひそめています。

『X』、『Y』、『Z』よりも本格ミステリーとして劣る作品と決めつけていままで再読していませんでしたが、最後の犯人を特定するロジックは素晴らしい。最後になって、ドルリー・レーンの魅力がさらに輝き、深い余韻が残ります。
評価を改めました。

今回は、解説の代わりに「訳者あとがき」があります。
クイーン・ファンの越前敏弥の熱い思いが書かれていて微笑ましい。
当初は『Xの悲劇』だけを訳す予定だったけれど、自ら志願して四部作を仕上げることになったそうで。
そして、なんと『ローマ帽子の秘密』から順次、国名シリーズも訳していくそうです!

純文学ならいざしらず、エンターテイメント小説がこれほど何度も翻訳されるというのは、シャーロック・ホームズ・シリーズを除いては、エラリー・クイーンくらいでしょう。

越前敏弥は、少年の頃、ミステリーのネタばらし本のせいで、四部作の犯人をすべて知った上で読んだそうですが、私もまったく同じ体験をしています。
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『Zの悲劇』 エラリー・クイーン [エラリー・クイーン]

角川文庫で、クイーンの悲劇四部作の新訳が順次刊行されています。今回、『Zの悲劇』が出ましたので、さっそく再読してみました。
高校生時以来、なんと四半世紀ぶりでした。
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『Xの悲劇』、『Yの悲劇』から10年後という設定。
サム警視は警察を退職し、私立探偵を開業。ブルーノ地方検事は州知事に出世をとげております。
60歳のときには壮年のように若々しかったドルリー・レーンも、今では病を患い、薬を飲む70歳となりました。
一方で、フレッシュな登場人物が加わります。サム警視の娘、ペイシェンス。
年齢ははっきり書かれてはいませんが、20代前半でしょう。
物語は彼女の一人称で進行します。

昔から、あまりにも有名な『Xの悲劇』、『Yの悲劇』の影に隠れいた『Zの悲劇』。
しかし、今回の再読で水準以上の佳作であることを確信しました。

上院議員とその兄の医師が殺害される。
容疑は近くの刑務所を出所したばかりの男にかかる。
あっというまに男の死刑が確定し、電気椅子に送られる日が刻々と近づく。
その男の無実を信じるペイシェンスとレーンが、得意の推理力で救済を図る、というのが大ざっぱなストーリー。

今回、驚いたのは、とても読みやすかったこと。
もちろん新訳ということもあるでしょうが、小説の作り方によるところが大きい。
1933年の作品ですが、事件関係者への訊問が繰り返されるというなヴァン・ダイン流の単調さからは完全に脱皮しています。
ペイシェンスという若い娘の一人称が成功していて、場面転換が多く、視点が行動的。
警察の動きにしびれを切らしたペイシェンスが、単身で事件関係者から秘密を聞き出すために、潜入捜査まがいことを行うなど、冒険的な場面を織り交ぜて、きわめてテンポよくストーリーが流れます。

電気椅子による処刑シーンの描写などは、読んでて痛々しくなるほどリアル。
ラストシーンの、電気椅子に電流が流される寸前で犯人が明かされるサスペンス豊かな設定など、とても黄金時代のミステリとは思えないリーダビリティーです。

エラリー・クイーンというと、堅苦しいロジックの作家だという固定観念があります。しかし、ストーリーテラーとしての一面についても、もっと注目して良いでしょう。

犯行現場に残された手がかりからいくつかの条件を羅列し、すべてに該当するただ一人が犯人であるとする推理法をレーンは使います。クイーンが得意とする方法です。代表的なのは『中途の家』でしょう。『中途の家』は条件が10以上ある複雑な推理を展開します。『Zの悲劇』で示される条件は半分以下ですが、シンプルで切れ味の良い条件で、頭に入りやすく、クイーンが作った名推理のひとつです。

現場に残した足跡が右足であることについて、犯人が無意識に右足を使ったことを疑いない前提として推理を組み立てています。
しかし、探偵がそう推理することを予期して、わざと右足を使った可能性についてはまったく考慮されていません。
10数年後には、ニセの手がかりで挑戦してくる犯人に、探偵エラリー・クイーンは苦悩するわけですが、ドルリー・レーンとペイシェンス嬢が悩まずにすんだのは、幸せなことです。
とはいえ、ふたりは違った苦悩に苦しみます。次作『ドルリー・レーン最後の事件』の話です。
こちらも新訳されるでしょうから、刊行されたら再読してみます。



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『Yの悲劇』 エラリー・クイーン [エラリー・クイーン]

『犬神家の一族』との意外な共通点

角川文庫から新訳がでましたので、再読してみました。15年ぶり、4回目です。
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かつては「海外ミステリー・ベスト10」などの投票イベントがあれば、毎回のようにベスト1に輝いていました。
現在では、海外ミステリーの多様化により、本格ミステリーに票が集中することは昔ほどはなくなりましたが、いまでも『そして誰もいなくなった』と並んで、もっとも有名な海外本格ミステリーのひとつでしょう。

再読し、あらためて傑作との印象を強くしました。
聾唖で盲目の三重苦の女性、ルイーザ・キャンピオンは、犯行時に現場にいた唯一の証人。
彼女から“証言”を引き出すときのサスペンスあふれる描写は、とても黄金時代の小説とは思えません。
殺人事件は1件しか発生していないのに、読者を飽きさせない強烈な推進力があります。

エラリー・クイーン得意のロジックでは、毒殺未遂犯と殺人犯が同一人物であることを証明する過程が特に素晴らしい。

さて、今回の再読で判ったのは、横溝正史の『犬神家の一族』との共通点。
ハッター家の主、エミリー・ハッターが殺害された後、残った一族と関係者を集めて弁護士が遺言状を読み上げるシーンがあります。
「誰々が何々した場合はこうこう、何々の場合はこうこう」といろんなパターンが規定されているところは、犬神佐兵衛の遺言状と同じですね。
また、三重苦の娘、ルイーザ・キャンピオンは相続に有利な立場にあり、他の兄弟から睨まれるところは、野々村珠世を彷彿とさせます。

さらに面白いのは、末娘のジル・ハッターが、
「私だけのけ者じゃないの!」
と叫ぶシーン。そう、犬神家でいえば小夜子です。

そして、「犬神奉公会」に対しては、「ルイーザ・キャンピオン聾唖盲人ホーム」というのがあり、その団体に遺産のほとんどがわたるパターンもあり。

エラリー・クイーンは、日本の多くの作品に多大な影響を与えていますが、こんなところにも顔を出しているようです。
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『十日間の不思議』 エラリイ・クイーン [エラリー・クイーン]

【事件の真相について触れていますので、ご注意ください!】

エラリイ・クイーン中期の代表作、『十日間の不思議』を20数年ぶりに再読しました。
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架空の街「ライツヴィル」を舞台にした長編の第三作。1948年の発表です。
ミステリ作家にして名探偵エラリイ・クイーンは、友人のハワード・ヴァン・ホーンから、
「しばしば記憶を失うが、その間に犯罪を犯しているかもしれない。自分のそばにいてもらい、記憶を失っている間の行動を監視していほしい。」
という相談を受ける。ハワードの自宅のあるニューイングランドの田舎町、ライツヴィルを訪れたエラリイはヴァン・ホーン家に宿泊し、小説の執筆をしながらハワードを見守る。
ヴァン・ホーン家はハワードの他に三人の男女がいた。
一代で財産を成した大富豪、父のディードリッチ。その若い妻でハワードの継母のサリー。ハワードの叔父のウルファート。

序盤から中盤にかけて、一家を巡る静かなドラマが進行していきます。
最初の殺人が発生するのは、物語が四分の三ほど進んでからです。
解説で鮎川哲也も言及していますが、退屈になりがちなプロットながらも、クイーンの筆力によって物語にぐいぐい引き寄せられます。
クイーンを構成した二人、ダネイとリーのうち、小説を執筆したのはリーです。彼はたいへん器用な書き手です。ヴァン・ダイン風の古風な「悲劇シリーズ」、カジュアルなスタイルの「国名シリーズ」、華やかな「ハリウッドもの」など、実にうまく書き分けています。
今回再読ながら、文庫本400ページ以上の物語を日曜日の1日で読み切ってしまいました。

家庭の悲劇を描いた犯罪ドラマ風に展開していきながら、突如として騙し絵のように世界が反転し、緻密に仕組まれた「十誡殺人事件」の全貌が読者に提示されます。
しかし、最終章でもう一度どんでん返しがあり、すべては真犯人による「操りの犯罪」であることがエラリイによって暴かれる。

中期以降、クイーンを悩ませることになる「操りテーマ」の、『十日間の不思議』は代表作です。
『悪の起源』や『盤面の敵』も、ある意味「操りテーマ」の極北ですが、『十日間の不思議』は一人の真犯人が名探偵を含めた他の主要登場人物すべてを操っているところがポイントです。
他人を操ることがそんなにうまくいくのか、と疑問を持たれるかもしれません。しかし、作中でもエラリイが分析しているとおり、この犯罪計画はたいへん柔軟性があります。
エラリイ・クイーンは日本の綾辻以後の本格作家に多大な影響を与えています。この主要な登場人物のほとんどを操る、というプロットは、京極夏彦の最高傑作『絡新婦の理』でさらに突き詰められています。

『十日間の不思議』は、典型的な二重解決になっています。いったん名探偵の推理によって解決が提示されますが、最後にどんでん返しがあって真の解決が突きつけられるという形式は、綾辻以後の作家たちが好んで用いたところです。

私がクイーン好きなので、ブログのくせにだらだらと感想が長くなってしまいました。作品の雰囲気が重いので、再読せずにいた『十日間の不思議』ですが、クイーンのA級作品のひとつであり、あらためて彼らの力量を再認識しました。
ある意味、続編となっている『九尾の猫』も再読してみます。
『九尾の猫』はいまさら紹介の必要のない大傑作ですね。

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『オランダ靴の謎』 エラリー・クイーン [エラリー・クイーン]

前にも書きましたが、私がもっとも好きな海外ミステリ作家はエラリー・クイーンです。
毎年元日に横溝正史を読むように、毎年1作はクイーンの初期長編を読み返すことにしています。
コアなカテゴリと思っていた本格ミステリですら、拡散してしまった現代ミステリ。
そんな時代に原点を忘れないように、との試みです。
今回は、創元推理文庫で新版が出ましたので、『オランダ靴の謎』を再読しました。
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多くの医療関係者が見学のために集まっていた手術室に運ばれてきた患者は、この「オランダ記念病院」の出資者の大富豪。シーツをめくると、大富豪の首には針金が深く食い込んでいた。明らかに他殺死体だった……。

クローズド・サークルものとは逆に、オープンなシチュエーションで発生する殺人事件が問題として提示されるというエラリー・クイーンのお得意パターン。劇場、デパート、スタジアムなど、国名シリーズではおなじみの設定ですね。

一般的に、この作品でエラリーが展開する推理は非常に高く評価されています。
しかし、今回再読して、エラリーの推理はごくごく普通の、ある意味地味すぎる推理であることに驚きました。
のちに都筑道夫が「論理のアクロバット」と名付けた、読者の日常的思考をひっくり返すような、たとえば山口雅也の「キッド・ピストルズ」シリーズなどでお目にかかる超推理などとは、正反対の推理です。
エラリーの推理だけを取り出してみれば、なんの驚きもないでしょう。

だからといって作品の評価が下がるということではありません。
単純な推理だからこそ、読者が手がかりを正しく選択できさえすれば、正解にたどり着くことが可能なのです。とくに、手がかりである「靴」は、それが重要な手がかりであることがはっきり判るように書かれていますし、そもそも題名になっているのですから、気づかぬ人はいないでしょう。

『オランダ靴の謎』を貫くコンセプトは、フェアであること。
手がかりも隠さず、ひねくれた推理もなく、実現不可能なトリックもなく。
作品の半ば、一つの章では、ページの下3分の1ほどが空白になっています。メモに使ってください、とアナウンスがあります。
巻末の「読者への挑戦状」と共に、この高度なゲーム性がまたクイーン好きにはたまりません。

さらに、エラリー・クイーンの巧みなのは、この単純な推理で、しっかりと犯人がひとりに限定できるように様々な状況設定をしていることです。
推理のために、作品世界が構築されている、本格ミステリならではの美しさが堪能できます。

そして、今回の再読で新たに気づいたのは、約80年前に書かれた、黄金時代の作品なのに、とてもリーダビリティーが高いということです。土日の2日で読み終えました。
黄金時代の海外ミステリは、殺人後、やたらと関係者の訊問シーンが続くので読むに耐えないというのをたまに耳にします。
『オランダ靴の謎』ももちろん訊問シーンがかなりのボリュームとなっていますが、これが飽きさせません。あらためて、小説家エラリー・クイーンの力量にも感服です。

この勢いで、さらにクイーンを再読してみようと思いました。
候補作は、もう中身をほとんど忘れている『フォックス家の殺人』とか『緋文字』あたりかな。
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