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『そして誰もいなくなった』 アガサ・クリスティー

昨年、NHK-BSで、イギリスBBCが制作したドラマ(全3回)が放送され、今春にはテレビ朝日で舞台を日本に移してのドラマ化。
なにやら、“春の『そして誰もいなくなった』祭”めいてきましたので、私も再読しました。これで3回目になります。

そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 作者: アガサ・クリスティー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2010/11/10
  • メディア: 文庫


読んだのは、最新の訳となる青木久恵訳のクリスティー文庫版。
長らくスタンダードだったのは、清水俊二訳の版。私もいままではこちらで読んでいました。

清水訳のほうは、舞台が「インディアン島」で、童謡は「10人のインディアン」。
青木訳では、「兵隊島」に「10人の兵隊」。
英米のペーパーバック版では、とある配慮から「インディアン」を「兵隊」に置き換えているらしく、青木訳でもそれにならったようです。
もともと、1939年発表時の英国版の題名は "Ten Little Niggers"で、舞台も「黒人島」でした。
米国版ではさすがに“Nigger”は使えないという判断だったようで、「インディアン」になったそうで。

一般に日本では、古い作品については巻末に「~当時の作者が差別を助長する意図で使用したものではなく~」などとと断り書きを入れて、原型どおりに刊行する流れが定着している感があります。
『そして~』の発表年代を考えると、これから日本で訳すものについては、発表当時の版を使ってもいいような気もします。

さて、青木訳は、オノマトペが多く、ひらがなが目立つことが気になりました。
早川書房では、2007年に「クリスティー・ジュニア・ミステリ」として青木久恵訳の『そして誰もいなくなった』を出しています。
クリスティー文庫の『そして~』は、これを元にしているのではないでしょうか。
ジュニア向けに平易に訳していたものが原型なら、うなずけます。
そのせいで、すらすらとあっというまに読めました。

清水俊二訳がけっして難しく訳しているわけではありませんが、見比べてみるとだいぶ雰囲気がちがいます。

さて、肝心の作品内容のほうですが、これはあらためていうまでもなく傑作。
私が一番好きなクリスティー作品です(月並みですが)。
黄金時代の英米本格とは思えないほどのテンポの良さと、サスペンス。現代でも立派に通用するスピード感です。

三読目で改めて感じたのは、犯人の異常性をかなり強調しているところ。
童謡に見立てて殺人を行うという非現実な行為を描くには、犯人に異常者になってもらう必要があるという判断なのでしょう。
そういえば、ヴァン・ダイン『僧正殺人事件』の犯人の異常性も光っていました。
現代のシリアルキラーものにつながります。

一方、横溝正史『悪魔の手毬唄』の犯人については、あまりそのへんは触れられていません。
20年前の惨劇に起因する悲劇が犯人を追い詰めた、というような書きぶりです。
そのあたりの違いは、面白いかも知れません。
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