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『魔女が笑う夜』 カーター・ディクスン [ジョン・ディクスン・カー]

ずっと気になっていた「知る人ぞ知る怪作」、カーター・ディクスンの『魔女が笑う夜』を読みました。
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この作品がどんなミステリなのか、まず著名人のコメントを紹介しましょう。
瀬戸川猛資は『夜明けの睡魔』でこんなふうに書いてます。
「知る人ぞ知る怪作。ちょっと信じがたいほど珍妙なトリックが登場する。チェスタトン風の奇想天外とはちがう。珍無類なのである。よくも、これほどバカなことを思いついたものだ。涙ぐましい、という気分すら起こさせる労作」

直木賞を受賞した北村薫は、「ミステリーズ! vol.34」の桜庭一樹との対談でこんなふうに言ってます。
「笑っちゃうんですよね。ほかの人じゃぜったい書けないでしょ。とんでもない作品です。これ、褒めてるんですよ。学生時代読んで感動しました。こんなこと書くのかよ、いい大人がと思って。しかもそれを刷って売ってると。おまけに、それを買って読んでるやつまでいる。俺だ(笑)」

どんなバカミスかと思いますが、ストーリーはけっこう地味です。
ストーク・ドルイドという英国の小さな村で、怪文書騒ぎが起きます。〈後家〉と署名された中傷の手紙が次々と村民に送られてきます。
その村の書店に貴重な古書があると聞いてやってきたのが、我らがヘンリー・メリヴェール卿。怪文書騒動に興味を持ち、解決に乗り出します。英国ミステリ伝統の“名探偵の休暇もの”の変形ですね。
H・Mは、登場シーンでいつものドタバタコメディをやらかしてくれます。
ただの寒いシーンとして終わる作品もありますが、『魔女が笑う夜』のドタバタはなかなか笑えます。
しかも、このシーンにも手がかりが隠されているところなどは秀逸。

〈後家〉は、村の名士の娘の寝室に深夜零時に現れる、と予告状を送ってきます。
もうこれは、江戸川乱歩の通俗長編のパターンですね。このあたりもスゴイ。
廊下と窓の外に警備の者たちがいるのにもかかわらず、零時に娘が〈後家〉を見たと悲鳴を上げ、警備の者が部屋の中に入りますが、〈後家〉の姿はなく……

J・D・カー(カーター・ディクスン)お得意の、密室ものです。
で、このトリックが「珍妙」なのです。
フジテレビで放送されたミステリ・ドラマ「33分探偵」で、名探偵・鞍馬六郎が番組を33分保たせるために、とんでもない間違ったいい加減な推理をいくつも展開しますが、その「いい加減な推理」レベルと言えば判りやすいでしょうか(判りにくい!?)。

冷静に考えると、そんなにうまくいくのか、という疑問もあります。
しかしそれよりまずスゴイのが、このトリックを長編に使うカーの度胸。
登場人物たちはもちろん大まじめで、真犯人もH・Mの推理を神妙に聞き入って、ちゃんと肯定してますし、シリアルに、どちらかといえば悲劇的に物語は終わります。
これが許せるかどうかが本格ミステリ愛好家かそうでないか、あるいはカーの愛読者かどうかの分水嶺かもしれません。
私は上記の二人のコメントを知っていたので、もっとひどいバカミスかと思っていましたが、まあこの程度ならいいのではないかと。
逆に、半世紀後、日本で流行した“バカミス”のムーブメントを先取りした作品のような気もしてきたりします。

純粋に本格ミステリとしては「怪作」かもしれません。しかし、怪文書に混乱する村の様子を多くの登場人物を描き分けて表現していますし、カーお得意のラブロマンスも、今回は二組のカップルの成立にこぎつけています。めでたし、めでたし。
事件らしい事件はなかなか発生しませんが、私はだれることなく面白く読めました。

とにかく話題に事欠かない作品だと思いますので、本格ミステリが好きな方で、未読でいらしたらぜひ読んでみてください。


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コメント 1

天下布武

わたしも「夜明けの睡魔」の瀬戸川の評で購入に走りました。

その噴飯っぷり、どのくらい?と思ってた割には、まあ、こっちの
未熟さもあって、しっかりした海外ものの文体で読まされると、
「それほど、馬鹿トリックかなあ?」と思いました。子供にはやや
小難しい文章の中に埋没してるためか?


だけど、そのトリックを、ひとたび、自分が犯人になって行う、
という想像に身をおくと、「ドリフのコントか^^」ってな按配に
気づく仕掛けで、志村とか「もしものコーナー」でやりそうです。

HMが変な格好でどたばたする騒動も、そうすると、
真相への暗示、とでも言えるかもしれませんね。
覚えてないんですけど・・動機も何もかも覚えていない・・^^

「笑う後家」のままの題名のが良かったかな。ほんとは
「笑う読者」に近い。
by 天下布武 (2009-08-24 13:20) 

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