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『奇面館の殺人』 綾辻行人 [綾辻行人]

館シリーズの最新作、『奇面館の殺人』を読みました。
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館シリーズの9作目。第1作『十角館の殺人』が発表されたのが、1987年ですから、もう25年にもなります。
とはいえ、最初の5年間に6作目の『黒猫館の殺人』まで発表されてますので、刊行のペースはぐっと落ちてます。
今世紀に発表された3作は、本格の味付けのあるホラー&サスペンスの『暗黒館の殺人』、ジュブナイルの『びっくり館の殺人』、そしてこの『奇面館の殺人』と、変化に富んだラインナップになっていますね。

さて、その『奇面館の殺人』。一言で言えば、“端正な本格”。
偶然なのかどうか、法月綸太郎も最新作『キングを探せ』で端正な本格を試みています。
麻耶雄嵩も、彼としてはオーソドックスな『隻眼の少女』と『貴族探偵』を近年発表しました。
1990年前後デビュー組の、いわゆる“新本格”といわれた作家たちの、ひとつのトレンドになるかもしれません。

舞台は、おなじみの建築家・中村青司が設計した「奇面館」。
で、お約束の「吹雪で孤立」。
館の主人の意向で、客たちは皆、のっぺりした仮面を被させられる。
朝起きてみると、仮面を被せられた上、鍵がかけれらて外せない。
そこで、発見される館の主人の首無し死体……

客たちは背格好も似ていて、同じ服を着せられている。
つまり、仮面の下の人物が入れ替わっている可能性がある。そして、遺体には首がない。

さすがはベテランの綾辻行人、アイデアの処理がうまく、とくにミスディレクションはみごと(あまり詳しく書けませんが)。
解決へ至るロジックにも無理がなく、よいバズラーに仕上がっています。
事件の件数に対して、長すぎるという見方もあるとは思いますが、中盤における探偵・鹿谷門実による状況分析もある意味ミスディレクションとなっているわけで、これはこれで必要かと。

ただ、館のギミックも犯人像も小粒であるのは否めず、『霧越邸殺人事件』や『暗黒館の殺人』のような、重厚長大な綾辻作品を期待している人にとっては肩すかしかもしれません。
私などは、『十角館の殺人』『迷路館の殺人』『どんどん橋、落ちた』などの、切れ味鋭い担当のようなバズラーこそ綾辻の主戦場と考えていますので、久々の本流と喜んでおります。

前作の『another』といい、バズラーとしての綾辻行人、完全復活といったところでしょうか。
次作にも期待です。何年後かな。

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「芙蓉屋敷の秘密」 横溝正史 [横溝正史]

あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。

さて、元日恒例の“横溝正史を読む”ですが、今年は「芙蓉屋敷の秘密」を選びました。
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いままではすべて金田一耕助シリーズから選択していましたが、面白い短編がネタ切れになってきたこと、そろそろ変化をつけたいと考え、戦前のノンシリーズの中短編からセレクトすることに。
ネットで調べると、「芙蓉屋敷の秘密」が興味深かったので、本棚から角川文庫『芙蓉屋敷の秘密』を引っ張り出してきました。

初読です。いろいろと発見がありました。

発表は天下の『新青年』。昭和5年(1930年)5月から8月にかけて連載されています。
当時「横溝氏がはじめて世に問う長編本格小説」と紹介されたそうです。
文庫版で130ページほど。いまなら中編といったところ。
横溝正史が雑誌編集長のかたわら小説を発表していた兼業作家時代の作品で、「鬼火」など耽美的な作風になる前のころです。もちろん由利麟太郎のシリーズもスタートしていません。

作品は、誌上で犯人当ての懸賞が企画されたというガチガチの本格物。
JDCの読書会でも戦前の本格物についてふれることがありましたが、こんな真っ当な、現在の意味でもちゃんと本格物と呼べる作品を横溝正史がこの時点で執筆していたことに驚きました。

お話は典型的なフーダニット。
女優の白鳥芙蓉が自宅の屋敷で刺殺される。
謎を解くのは、名探偵 都築欣哉。
ワトソン役にその友人の小説家 那珂省造。物語は彼の一人称で進みます。
都築探偵の知り合いに、篠山検事というのがいて、その検事のつてで捜査に参加。
そうですね、これはヴァン・ダインのフォーマットです。
名探偵の設定は、ずばりファイロ・ヴァンスです。
ヴァン・ダインの『グリーン家殺人事件』は「芙蓉屋敷の秘密」が発表された前年、昭和4年にわが国に紹介されています。当時、日本の探偵小説界に与えた衝撃は、ここで繰り返すまでもないでしょう。
「芙蓉屋敷の秘密」の第一章を読むと、ヴァン・ダインの影響を強く受けた書き方であるのがわかります。

同じく『グリーン家殺人事件』の影響を受けた浜尾四郎の『殺人鬼』は、昭和6年の発表です。
『殺人鬼』はより力の入った大長編ですが、文章のデキは横溝正史に軍配が上がります。
横溝の文章、古びません。

事件が複雑なわりには分量が少ないですし、犯人もピンときますので、傑作とは申しませんが、たいへん興味深い作品で、面白く読みました。
もう少し有名でもおかしくない作品です。
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『キングを探せ』 法月綸太郎

法月綸太郎の最新長編 『キングを探せ』 を読みました。
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無駄を削ぎ落としたパズルストーリーです。
一時“端正な本格”が議論されたことがありましたが、この『キングを探せ』こそ端正な本格にほかなりません。
主人公の恋愛とか、社会派的告発などは一切なく、ヴァン・ダインなら「夾雑物がない」と言って喜びそうな作品です。
よって、好みが分かれるところではあると思いますが、私はたいへん面白く読みました。
正直、法月綸太郎の長編では最高傑作ではないでしょうか。

冒頭は、四人の人物が四重交換殺人について打ち合わせするシーン。
とうぜん名前は明かされず、ニックネームで書かれています。
少し曖昧な書き方だし、ここがポイントとみた私は、人物相関図をメモしながら書きましたが、あえなく作者の罠にはまり、最後に仰天!

『キングを探せ』は長編と言うよりは、長めの中編といったかんじで、法月の得意とする短編ミステリのテイストを全開にした作品です。
ある仕掛けがされていて、最後にそれが明かされると、床が抜けたような衝撃を味わうというつくり。
いわゆる“どんでん返し”パターンの作品。
今年読んだ本格ミステリでは最高点です。

新本格第一世代、綾辻行人、法月綸太郎、麻耶雄崇は、それぞれ独自の本格ミステリ観に基づき、自分の世界を構築しております。
作者として成熟し、迷いがないかんじ。
いまも日本の本格ミステリを牽引している力強い存在です。

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