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『怪人二十面相』 江戸川乱歩 [江戸川乱歩]

岩波文庫に「怪人二十面相シリーズ」が収録され、衝撃を受けました。
さっそく購入し、とりあえずシリーズ第一作『怪人二十面相』を再読しました。

怪人二十面相・青銅の魔人 (岩波文庫)

怪人二十面相・青銅の魔人 (岩波文庫)

  • 作者: 江戸川 乱歩
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/09/16
  • メディア: 文庫


底本は、連載後すぐに刊行された戦前の版。
戦後にいろいろと手が入っているやつは、たとえば「羽田空港」というように今風の名前に直されてしまっていて、軽い疑問をおぼえながら読んでいましたが、岩波文庫版ではちゃんと「羽田飛行場」となっていて、時代を感じさせてくれます。

今回再読して思ったのは、意外にも話がしっかりしているところ。
とくに、東京駅での明智小五郎と二十面相との駆け引きは面白い。
二十面相の心理もよく描けています。
長く継続したシリーズの第一作が良くできているのは、シリーズ物によくある法則。

戦前の少年探偵団シリーズ(『怪人二十面相』から第四作の『大金塊』まで)は、大日本雄弁会(現、講談社)刊行の月刊誌「少年倶楽部」に連載されていました。
この雑誌は読者層が中学生までとされていていました。

一方、戦後は主に光文社刊行の月刊誌「少年」に連載。
こちらは、メインの読者層は小学生だったそうです。
漫画も掲載されていて、「鉄人28号」とか「鉄腕アトム」が連載されていた。

戦後の怪人二十面相シリーズは話が単調で、二十面相の犯罪も「怪盗」というよりは、いかれたコスプレ野郎の愉快犯、というのが多くなってきます。
たとえば、『鉄塔の怪人』(1954年)では、二十面相はカブトムシのコスプレをして世間を騒がし、カブトムシ・コスプレの兵団を組織して、山の中に王国を築こうとします。
(一説には、戦前の『妖虫』の少年版リライトとも言われています。)
まったく馬鹿馬鹿しい話で、そもそもその資金はどこから出ているのか。

このあたりは、読者層の低年齢化が無関係ではないでしょう。
念のため申し添えますと、私はけっして戦後の少年探偵団シリーズが嫌いというわけではありません。
難しい小説に読み疲れたとき、コミックでも読む気分で、たまに少年探偵団シリーズを読んでいます。

さて、例に出した『鉄塔の怪人』ですが、ラストがなかなか衝撃的。
高い塔のてっぺんに追い詰められた二十面相は、
「てすりをのりこえ」、「目もくらむ数十メートルの地上へと、矢のようにおちていきました。」
「怪人二十面相の、あわれなさいごだったのです。」
となり、普通に読めば、二十面相は死んだとしか思えません。

いままでも、大爆発が起きて「二十面相の最期でした」ふうの説明書きはありましたが、それらは死体の確認があいまいな状況であり、実は生きていた、というパターンが可能なものです。
しかし、『鉄塔の怪人』のラストは誤魔化すのが難しい、というか誤魔化しようがない。

綾辻行人は、ここで初代二十面相は死亡し、次作からの二十面相は二代目だ、という説をとっています。
他には、二十面相はいくどか代替わりして、最期は四代目だという説もあるそうです。
シャーロッキンアン的な読み方ですね。

まあ、少年物ですから、あまりこだわらなくてもいいのではないでしょうか。
二十面相は、ホームズの「空き屋の冒険」のようなトリックを労さずに、次作『海底の魔術師』でなにごともなかったかのように復活しています。
めでたしめでたし。

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『SS-GB』 レン・デイトン

小説の発表から約40年。今年、英国BBC放送でドラマ化され、日本でもCSの「AXN ミステリー」(昔のミステリーチャンネル)で放送されました。
録画したのですが、観る前に原作も読んでおこうと、古本屋で探したり、ネット書店で検索したりしたけれど、探し当てられず。
こんなときの最終手段、地元の市立図書館で借りました。
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有名な小説ですから、未読でも設定だけならご存じの方も多いはず。
第二次世界大戦において、もしナチス・ドイツが英国を占領していたら……というifの物語。

1941年、英国はドイツに降伏。
チャーチルは銃殺され、国王ジョージ6世はロンドン塔(!)に幽閉。
ロンドンの街には、ドイツ人が我が物顔で闊歩。実際にドイツに占領されたパリの光景が重なります。
ソ連には侵攻していない設定で、ナチスとソ連は表面上、友好的な関係にあります。

主人公は、ロンドン警視庁のダグラス・アーチャー警視。その相棒、ハリー・ウッズ部長刑事。
英国ミステリーでおなじみの警察官コンビ、といったところ(たとえば、モース主任警部とルイス部長刑事、とか)。
警察庁長官にはドイツからケラーマン師団指揮官(中将に相当)という将軍が派遣されています。有能な刑事で、ドイツ語の堪能なアーチャーはケラーマンからの信頼が厚い。

そんな占領下のロンドンで、ある殺人事件が発生。被害者は身元不明。
アーチャーとウッズが捜査を担当。
そこへ、ドイツ本国からナチス親衛隊情報部のフート連隊指揮官(大佐に相当)がやってきて、捜査に介入。
フートは親衛隊長官ヒムラーの直属の軍人。
ただの殺人事件ではないのは明らかで、やがてアーチャーは事件が原子爆弾の開発とからんでいることをつきとめる……。

原子爆弾の開発をめぐって、ドイツ国防軍とナチス親衛隊が対立。
ケラーマンとフートによる、ロンドンの治安維持を巡る親衛隊内部の対立。
英国レジスタンスによる抵抗運動。
アーチャーと米国ジャーナリストとの恋。
などの要素が絡み合い、物語は重厚にゆっくりと展開します。

一人の容疑者のために大勢の無関係の人たちが突然連行されたり、
親しかった人が強制収容所に送られたりと、ナチス占領下の恐怖が巧みに描かれます。
このあたりはうまい。

アーチャーの捜査も(名探偵っぽい単独捜査)、本業のミステリー作家の筆かと思うほど。
引き込まれます。

残念なのは、終盤になって様々な要素が急転直下で展開し、バタバタと解決してしまうところ。
このへんの事情はわかりませんが、契約の枚数に収まらなかったのでしょうか。
文庫本で上下2巻の量ですが、3巻くらいになっていれば物語のレベルは高くなっていたかもしれません。
正直、肩すかし的解決でして、この小説が日本でずっと絶版になっている理由はそのあたりにあるかもしれません。
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『ミステリー・アリーナ』 深水黎一郎

2016年版『本格ミステリー・ベスト10』の第1位作品。
1位も納得の傑作、というか怪作?。
ミステリー史に名を残すインパクトがあります。
オールタイム・ベスト(裏ベスト?)を組むときに、候補としてあげておきたい作品。

ミステリー・アリーナ (ミステリー・リーグ)

ミステリー・アリーナ (ミステリー・リーグ)

  • 作者: 深水 黎一郎
  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2015/06/30
  • メディア: 単行本


私は、次の3人を本格ミステリーの「若手旗手三人衆」として注目しています。

大倉崇裕
大山誠一郎
深水黎一郎

本格ミステリーを読まない人には知名度は著しく低いでしょう。
大倉崇裕については、ドラマ化のおかげもあり、少しは有名になったかも。

『ミステリー・アリーナ』は、ジャンル分けすると「多重解決もの」。
ただ、ずいぶんと変わった多重解決です。

舞台は近未来の日本。
テキスト朗読による犯人当てクイズ番組が大晦日に生放送されている。
驚異的な視聴率を獲るおばけ番組で、その優勝賞金は数十億という巨額。

同じ答えの場合は、早く回答した方が勝つ、というルールのため、テキスト朗読の途中でも分かったと思った回答者は果敢にもボタンを押します。
回答者が10人以上おり、彼らが次々に独自の推理を展開するため、おのずと多重解決の様相を呈します。

作中の問題編となっているミステリー小説について、回答者は執拗に細かい部分まで疑います。
とくに、叙述トリックの仕掛けを、「そこまで考えるか!」とこちらがあきれるくらい。勘ぐります。
思いつく限りの叙述トリックのパターンを出してきた感じ。
叙述トリック・ミステリーの壮大なパロディとも、叙述トリック批判、とも読めます。
これを読んで、私は正直なところ、もう叙述トリックを使った小説は書けないな、と思いました。

深水黎一郎は、本格ミステリーの約束事を過剰につきつめて、パロディ的に仕上げるのがお好きのようで、『大癋見(おおべしみ)警部の事件簿』という作品があります(こちらも怪作! 面白いけど)。

『ミステリー・アリーナ』はとにかく手の込んだ技巧的な作品で、多忙なプロの作家がここまで丁寧な仕事をしたことに脱帽。彼自身も、もうこんな作品は書けないでしょう。

予測不可能な本格ミステリーを繰りだしてくる深水黎一郎。
新作に期待です。




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