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『ミステリー・アリーナ』 深水黎一郎

2016年版『本格ミステリー・ベスト10』の第1位作品。
1位も納得の傑作、というか怪作?。
ミステリー史に名を残すインパクトがあります。
オールタイム・ベスト(裏ベスト?)を組むときに、候補としてあげておきたい作品。

ミステリー・アリーナ (ミステリー・リーグ)

ミステリー・アリーナ (ミステリー・リーグ)

  • 作者: 深水 黎一郎
  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2015/06/30
  • メディア: 単行本


私は、次の3人を本格ミステリーの「若手旗手三人衆」として注目しています。

大倉崇裕
大山誠一郎
深水黎一郎

本格ミステリーを読まない人には知名度は著しく低いでしょう。
大倉崇裕については、ドラマ化のおかげもあり、少しは有名になったかも。

『ミステリー・アリーナ』は、ジャンル分けすると「多重解決もの」。
ただ、ずいぶんと変わった多重解決です。

舞台は近未来の日本。
テキスト朗読による犯人当てクイズ番組が大晦日に生放送されている。
驚異的な視聴率を獲るおばけ番組で、その優勝賞金は数十億という巨額。

同じ答えの場合は、早く回答した方が勝つ、というルールのため、テキスト朗読の途中でも分かったと思った回答者は果敢にもボタンを押します。
回答者が10人以上おり、彼らが次々に独自の推理を展開するため、おのずと多重解決の様相を呈します。

作中の問題編となっているミステリー小説について、回答者は執拗に細かい部分まで疑います。
とくに、叙述トリックの仕掛けを、「そこまで考えるか!」とこちらがあきれるくらい。勘ぐります。
思いつく限りの叙述トリックのパターンを出してきた感じ。
叙述トリック・ミステリーの壮大なパロディとも、叙述トリック批判、とも読めます。
これを読んで、私は正直なところ、もう叙述トリックを使った小説は書けないな、と思いました。

深水黎一郎は、本格ミステリーの約束事を過剰につきつめて、パロディ的に仕上げるのがお好きのようで、『大癋見(おおべしみ)警部の事件簿』という作品があります(こちらも怪作! 面白いけど)。

『ミステリー・アリーナ』はとにかく手の込んだ技巧的な作品で、多忙なプロの作家がここまで丁寧な仕事をしたことに脱帽。彼自身も、もうこんな作品は書けないでしょう。

予測不可能な本格ミステリーを繰りだしてくる深水黎一郎。
新作に期待です。




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『雪花の虎 』 東村アキコ

上杉謙信は昔から好きな戦国武将のひとり。
天才的といえるほどの野戦指揮能力が権力の基盤となっているのは、ナポレオン・ボナパルトなんかと同じですね。

雪花の虎 1 (ビッグコミックス) (ビッグコミックススペシャル)

雪花の虎 1 (ビッグコミックス) (ビッグコミックススペシャル)

  • 作者: 東村 アキコ
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2015/09/11
  • メディア: コミック


数々の合戦の勝敗(ほとんど負けていない)や、同時代の武将たちが上杉謙信との決戦を極力避けていたことから、その無類の強さは折り紙付き。
ゲーム「信長の野望」でも、使用禁止にすべきくらい、反則的に強い。

しかし、上杉謙信の軍について、軍事的な特徴を具体的にはっきり記した書物がないので(このへんは、他の戦国武将も同じ。江戸時代に軍学者がいろいろと書いているのですが、学術的な検証をへたものではなかった)、どうして上杉軍が強かったのか、実は定かではありません。
たとえば、謙信の代名詞ともいえる「車懸りの陣」でさえ、実際どのような陣形だったのかは不明です。

謙信については、ほかにも謎があり、その死因などもよくわかっていません。
そして、上杉謙信は生涯妻を持たなかった、というのも詳細な実像は謎で、正妻がいなかっただけで、愛人はいた、とか、そもそも女性に対して不能だった、とか諸説あり。
「上杉謙信女性説」というのもそのひとつ。
『雪花の虎』は、謙信が女性だったと大胆に仮定して、その生涯を描いています。
作者の東村アキコという人はそれまで知らず、『東京タラレバ娘』の原作者というのも、今回初めて知りました(ドラマでやってましたね。観てませんが)。

漫画全般に詳しくなく、これがもしかしたら少女漫画なのかもしれないと警戒しつつも、とりあえず読んでみたら、これがまた面白い。
同時代の風俗の時代考証なんかはかなりデフォルメされていますが、まあそこは漫画。
キャラクターも尖っていて、面白いエンタメに仕上がっています。

作者は、絵も上手で、表現力もある。笑いも取れる。

ときおり、「上杉謙信女性説」を補強するエピソードを入れてきます。
読んでいるうちに、なんだか、もしかすると、その説ってアリかもねと思えてくるところが怖い。作者の術中にハマってしまいました。
まあ、井伊直虎とかいたくらいだし。

まだ第2巻ですが、全部読むつもりです。
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『新しい十五匹のネズミのフライ』 島田荘司 [島田荘司]

こんどもまたホームズがらみ。

新しい十五匹のネズミのフライ: ジョン・H・ワトソンの冒険

新しい十五匹のネズミのフライ: ジョン・H・ワトソンの冒険

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/09/30
  • メディア: 単行本


島田荘司はシャーロッキンアンでもあります。
すでに『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』においてホームズを活躍させています。ホームズがコカイン中毒で仕事にならず、そのあいだワトソンと夏目漱石が活躍するというお話でしたが、この『新しい十五匹のネズミのフライ』も似たような設定。
ただし、ホームズの薬物中毒はより深刻で、精神病院に強制入院。再起不能を匂わせます。
そこで活躍するのが、今回はワトソンひとり。まさに副題のとおり、「ジョン・H・ワトソンの冒険」となっています。

本格ミステリーの要素はだいぶ薄く、サスペンスやアクションに重点がある作品。
ワトソンも参加する銃撃戦のシーンもあります。

ドイルが書いた60編のホームズものの流れに矛盾しないように、時系列を整え、ワトソンに新しい過去のエピソードを追加し、面白い物語に仕上げてあります。
そのあたりの工夫が「あとがき」に書いてあるので、必読でしょう。

興味深かったのは、ホームズが入院したため、事件のネタが尽き、新しい話を書けなくなったワトソンが編集者から新作を迫られるシーン。
ワトソンは苦し紛れに完全にフィクションで短編をひとつ創作します。それが「這う人」という設定。

「這う人」は最後の短編集『シャーロック・ホームズの事件簿』に収まっている話。
著名な大学教授が突如、野獣のように這い回り、ものすごいスピードで移動したり、壁を上ったりしはじめる。さらには、愛犬と格闘をはじめる始末。
真相は、若い妻をもらうことになった教授が精力をつけるため、類人猿の血から抽出した成分をこっそり注射していた。その作用で、日ごろの振る舞いまでも類人猿のようになってしまった、という、つまりはバカミスのような物語。
コナン・ドイルの正気を疑うようなありえない話です。しかも、発表は1923年で、もうこの時代はミステリーも長編中心の黄金時代にはいっており、よくまあ、こんな話が「ストランド・マガジン」の載ったものだな、と。

そして、『新しい~』の中でも「這う人」を執筆したワトソンに対し、編集者が、
「この作品はストックにしておきましょう」
と暗に採用できないと告げます。笑いました。
実際も、「這う人」が発表されたのはドイルの活動期間の末期ですから、「ストック説」も妙に納得がいきます。

最大の謎は、「新しい十五匹のネズミのフライ」の意味ですが、トリックとしてはたいしたことありません。短編だったら支えられたかな。
まあ、ご愛敬。
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